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(1945年9月~47年5月)妊婦への放射性鉄投与の人体実験~ナッシュヴィルの妊婦たち(アイリーン・ウェルサム『プルトニウムファイル 上』)~


 ブログ「人種主義・人体実験大国の米国の本質を考慮した結論とは?~BTS(防弾少年団)騒動 官民挙げての嫌韓ヘイト【乗松聡子の眼】」の「注記欄」でも少し触れたが、
「ナッシュヴィルの妊婦たち」の詳細をこの記事では紹介したいと思う。

 ナッシュヴィルといえば、テネシー州の州都だが、テネシーと聞いて私が真っ先に思い出すのは「テネシーワルツ」という歌だ。


■テネシーワルツ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%AF%E3%83%AB%E3%83%84

初期[編集]

1946年、ピー・ウィー・キングおよび彼のバンドのゴールデン・ウエスト・カウボーイズがテネシー州ナッシュビルで『グランド・オール・オープリー』に出演するためリムジンで移動中、彼と歌手のレッド・スチュワートは共同で作曲を行なっていた。・・・

■江利チエミ テネシー・ワルツ 歌詞&動画視聴 - 歌ネット
https://www.uta-net.com/movie/38435/

■テネシーワルツ パティ・ペイジ 聴き比べ
https://www.youtube.com/watch?v=75AKlsFBJi4

*****


 上掲記事に「グランド・オール・オープリー」という言葉があるので、読者は記憶に止めておいて欲しい。

 「原爆Tシャツ」問題の関連でこの妊婦への人体実験の話題が出てきたのだが、2発の原爆に「原爆バンザイ」した当時の人たちはもちろん、現在でも「原爆バンザイ」を否定できない人びとは、原爆2発の人体実験より早くプルトニウム注射の人体実験が始まっていたことは知るよしもなく、さらに原爆投下の後の9月から始まった妊婦への放射性鉄投与の人体実験もまた知らないのであろう。戦時中のみならず戦後も人体実験をやっていた
奴らをどうやってかばうのかは私にははかりしれないが、継続する間違いは最初の間違いから正すしかなく、"原爆2発の人体実験"と記憶にしっかり止めることが極めて重要である。


 さて、本題の記事の主題に話をうつすと、ナッシュヴィルで行われた人体実験は妊婦への内部被曝問題なのだが、今日の医療現場では患者への放射線の外部被曝問題が重要である。日本は医療被曝大国だと言われているから、「妊婦・放射線」で検索しても、「大丈夫」というサイトが多くヒットするが、そんな中で以下のサイトが放射線曝露歴がリスクを増やす研究を取り上げていた。

 

■<特集「放射線と健康」>
胎児・小児期の放射線被曝
野  崎  太  希*
聖路加国際病院放射線科
http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/120/120-12/nozaki12.pdf 

ての小児がんでのオッズ比は1.00ー1.64の間で
あった(表2)ただし95%信頼区間はすべてで
1をまたいでおり統計学的な有意差のない結
果であったが放射線の暴露歴がある群すべて
でオッズ比1をこえて偏りがあり妊娠中お
よび生後100日までの診断用放射線被曝は小児
がんのリスクをふやす可能性があると結論づけ
ている)これまでの疫学研究では放射線暴露歴
をインタビューで行っているため思い出しバ
イアス(recall bias)が避けられなかったのであるが
このstudyでは放射線暴露歴の確認を診
療録から裏付けていることが非常に大きい
 
・・・
このように最近
でも診断用放射線による小児がんのリスクにつ
いての報告には両論があるが不必要に放射線
被曝をうけるデメリットについてわれわれ医
療従事者は常に考えておかなければならない
 単純線より線量の多いによる放射線被
曝の影響については現在いろいろな国で研究
が進行中でありその結果が待たれる


******


 また、以下のサイトでは医師が語る医療被曝問題。ちょっと長いが以下に引用──

 


みんな楽しくHappy♡がいい♪

2011年3月11日。その後私は変わりました。 

2.「医療被曝も本当は身体に悪いんだよ」牛山元美医師3/18臨床医が見たチェルノブイリ、福島の現状 (文字起こし)

「臨床医が見たチェルノブイリ、福島の現状」
牛山元美医師(さがみ生協病院)
2014年3月18日

 元々、私は臨床医なんですけれども、病院では普通にレントゲンを使っています。
レントゲンというのはX線という放射線。
ガンマ線とほぼ同様ですけど、何が違うか?というと「電気的に作っている放射線」だということですね。

それによって、皆さんはどれで被ばくするか?
高木学校、さっき崎山先生が出ていらっしゃってたんですけれども、
高木学校が発行している医療学手帳、30円位で手に入ります。
とってもいいものだと思います。
ここにこんないろんな事が書いてあります。

普通の胸のレントゲンを1枚撮ると、それで大体0.03ミリシーベルトです。
で、「ちょっと影があるな、レントゲンじゃわからないからCT撮りましょう」
MRIという検査は被ばくしないんですが、でも肺の場合は空気だけなのでMRIでは分からないんです。
だから肺の場合はどうしてもCTになります。
胸部CTをやりました。
癌が見つかったかもしれない。
でもそのCTのせいで約8ミリシーベルト浴びた事になるんです。
ま、1回で済めばいいですけれども何回も重ねてやっているかもしれない。
それから意外とよくやっているのが胃癌健診といって、バリウムを飲んでレントゲンを撮ります。

私は循環器という血圧とか心臓の病気が専門なんですけど、
医者になって1年目2年目の新米の時は当番でバリウムをやるかかりなんです。
機械の前に立って、患者さんは中にいます。
窓ガラスがあります。
そこには鉛が入っているので私は被ばくしません。
中に入っている患者さんは、バリウムも飲みながら、
その飲んでいる瞬間にも私は足の左スイッチを押すとその患者さんに向かってレントゲンが出る。

すると透視と言って、患者さんのお腹の中のバリウムの状態が映し出されるんです、こんなふうに。
それを見ながら、「むこうを向いて下さい」「一回転して下さい」とか
「ゴックンと飲んで下さい」ってやるんですけど、
上手い写真がとれないとどうするか?
何度も何度もレントゲンを浴びさせながら、また飲んでもらったり姿勢を変えます。
そうすると、装置からピーピーピーピーとアラームが鳴るんです。

沢山かけちゃったよ。
ダメだよこれ以上かけたら。
その時私はどうしたか?
先輩からなんと言われたか?

「消せばいいよ」
「アラームを消せばいいよ」


あのね、あなた達はね、いかに綺麗な、いかに信頼、早期の発見ができるか、
そういった、いかに芸術的な綺麗な胃癌を見つけられるような写真を取る事があなた達の仕事なんだよ。
患者さんは大丈夫だよ。
この位被ばくしたって全然問題ないから。
って一言で言われて、
「あ、そうか。アラームを消せばいいんだ」と思って、
それからもしつこく私は綺麗な写真を撮って会議の時に褒めてもらうために一生懸命撮っていました。

そんな思いがあったので、この胃のバリウム。
これはやる人がやると3ミリシーベルトじゃ終わらない訳ですよ。
私の様な人がやっていたらもっと被ばくさせていた可能性があります。

そんな事を考えながらこんなものを見ていると、あ、本当に爆発したんだなと思います。


実は、「病院で使う放射線はそんなに危なくないよ」と、皆さんそう思ってらっしゃる方もあるかもしれませんが、
もう60年前にアリス・M・スチュアート先生がイギリスで、
ちょうど幼児の間で何故か癌が以上に増えてきているという話があって、
じゃあなんでだろう?という事で、
癌で死んだ子供の親、それから癌で死ななかった元気な子どもの親。
同じだけの人数に対して話を聴く聞き取り調査をしました。
そうすると、癌になってしまった子どものお母さんの話だと、
その人達はみんなお腹の中に赤ちゃんがいる時に何度も骨盤の写真、レントゲンを撮っていたと。
その違いしかなかった。

その違いで子どもたちは生まれてから癌になったと。
2倍近く癌になりやすいという事がハッキリと分かった。


いま、お腹のレントゲンは約0.7ミリシーベルトで、胸より大分かかるんですね、分厚い分だけ。
だけど昔はもっと機械が悪かったので沢山被ばくしていたと思います。
でもそれだとしても本当に数ミリシーベルト。
それを数回かけるだけで子どもが癌になったという事がもう60年前に分かっていた。


それがもとで私たちは医学部、大学でこんなふうに習ったんです。
お母さんがまだ自分で妊婦だって分かっていないような非常に妊娠初期の時が一番放射線を浴びた時に発症しやすい。
感受性が高い。
だから、若い女性を見たら妊婦だと思いなさい。
「私は妊娠していません」と言われても、「でもしているかもしれないと思ってしつこく聞け」と。
だから「吐き気がするんです」って若い女性が来た時に、
「じゃあ、バリウム検査やりますか」なんて言っちゃダメだよ、

「妊婦かもしれないと思ってかかれ」と言われていました。
それはこう言った事実があったからです。
それは医学部で当たり前に教えています。



私は実は高木学校というところで医療被曝について数回勉強させてもらったことがあります。
そのきっかけになったのがこの新聞記事です。


2004年。
日本の癌の3%は医者が使った、診断のために使って放射線が原因だという、
イギリスのランセットという雑誌の掲載ですね。
これはCTが日本では非常に普及していて、
そのCTのかけ過ぎで実はいろんながんが日本で増えた。
そういう統計的な話です。
でも、これはまぁ今から10年前ですけれども、


これは2011年にカナダの雑誌に載ったものです。
今度は心臓カテーテル検査。
狭心症とか心筋梗塞の検査をやります。
管を入れて、管の先から心臓の血管に造影剤を流します。
その心臓の血管に造影剤の流れていく様子をレントゲンをかけながら映画のようにしているんです。
そうすると、どこが細くなっているか分かる。
細くなっているところが分かればそこに針金とか風船を通してそこを広げたり、

ステントという針金をそこに置いたりして治療までできちゃう。
すごくそれで、心筋梗塞で、狭心症でも亡くなる方が本当に減りました。
もう、1泊2日で帰って来れちゃったりする。
昔は何日も何週間もかかった治療が。
すごくいい治療なんですけれどもずーっと被ばくします。

ずっとレントゲンをかけながら、管を入れたり操作をします。
だいたい1回で10ミリシーベルト位浴びます。
しかも一回治療をした、ステントを入れた、バルーンでふくらましたといった後は
必ず3ヶ月とか半年経ったらもう一回やるんです。
もう一回やって、この間治療したところがちゃんとそのまま綺麗にいっているかどうかを見るんです。
そうすると1回やってきた、2回目3回目と重なっていくと、
その分1回やるごとに3%発がんリスクが上昇する。
やっぱり大体10ミリシーベルト位で3%ぐらい上がる
これはカナダの先生たちが、つい3年前ぐらいに出された表です。
いま続々とこういう発表がされている。

医療被曝も本当は身体に悪いんだよ。
そんなのみんななんだって知っていたけど、ちゃんと証拠がなかった。
でも今こうやって沢山の患者さんがある意味で犠牲になりながら証拠になっています。


ただ私も胸のレントゲンを撮るのを躊躇したために、
食道がんが肺に転移しているのを発見するのが遅れて弟が早く亡くなってしまったという、
すごく苦い思いがあります。
レントゲンを撮ったりCTを撮る事によってすごく発見とか的確な治療が得られる利益が得られるはずなのに、
でもそれと同時に被曝によってどこかに健康障害が起こるかもしれない。
その天秤で考えていかなければいけない。


患者さんが受ける医療被曝には上限がない。
被ばくでやけどしても、命が助かる方が患者さんにとって利益だろう、という考え。
しかし、被ばく量が多い程何年後かに発がんする可能性は高くなる。


で、患者さんが受ける医療被曝には上限が決まっていません。

何ミリシーベルトでもいいんです。
「その分利益があるから」という考え方です。

でも医者はそのそばに立って一緒に被曝することが多いので、
自分は被ばくしたくないからみんなエプロンをつけます。

ただのエプロンじゃないです。
鉛が入っています。
重いです。
厚いです。
みんなせっせとつけます、
首にもつけます。甲状腺を守るために。
腰につけるのは卵巣を守りたいからです。
みんなやっています。

で、こういう検査をしている医者とか看護師さんは、みんな半年に一回電離放射線健康診断をやります。

この中で水晶体が白内障になっていないか?皮膚にやけどがないか?白血球がおかしくなってないか?
こういう事を必ず調べます。
でも年間で、私たちは浴びていても本当に1ミリとか2ミリぐらいなんですよ、せいぜい。
そこまでも行かないくらい。
それでもこの検査をやっています。


今福島で20ミリシーベルトまでOKにするんだったら、
こういうのはもう当たり前のように、というか当然やらなければいけない事だと思うのですけど、と思っています。


つづくーー


******


 上掲記事の中に高木学校の医療用の冊子の話が出てきますが、『レントゲン、CT検査 医療被ばくのリス ク』も高木学校から出ている本なので、以下にその話題──

 


小児科医・山田真の意見について

https://blogs.yahoo.co.jp/henatyokokakumei/39016982.html


・・・ 

小児科医・山田真は医療被曝大国の日本では珍しく医療被曝を減らそうとして
いる医者です。小児科開業医がエックス線を必要とするのは、肺炎の確定診断
の時だけだそうです。よって症状から肺炎だと診断して、その診断を確かめるた
めにエックス線撮影をすれば、医者は安心するのでしょうが、山田真はしない
ようです。よって山田真の連れ合いの診療所にはエックス線装置を置かなかった
そうです(『レントゲン、CT検査 医療被ばくのリス ク』高木学校・編著、
ちくま文庫、2014年、参照)。

 かような医者でも、チェルノブイリ事故以後の研究全体に注意を払っていない
と、「低線量被曝では、身体の表面の症状は出てこないでしょ」と言っ てしま
うわけです。
 この発言の意味は、松井英介の低線量被曝による鼻血の機序の説明が納得でき
ないのか、それともチェルノブイリ事故以後の疫学(低線量被曝での一定数の
鼻血)を無視しての発言なのかは分かりませんが、いずれにせよ、分からないこ
とを分かったように、「身体の表面の症状は出てこないでしょ う」と言ってし
まうのは科学的態度ではありません。

 「医学が科学か?」については、いろいろ意見もあるようですが、こと放射線
に関しては医学はIAEA(国際原子力機関)に屈服しているわけで (WHOは
1959年にIAEAと「互いの許可なくしては放射能の影響に関するデータを
公表しない」と協定)、医師が分からないことでも分かった ように言ってしま
う傾向が強いのでしょう。

 低線量被曝による鼻血の機序が解明されなくても――松井英介の説明があってい
ようがいまいが――低線量被曝で鼻血が出ている事象がある以上、 「低線量被曝
では、身体の表面の症状は出てこないでしょう」と言ってはいけないのです。

・・・

*****


 アリス・M・スチュアートの名前も出てきましたし、そろそろアイリーン・ウェルサム『プルトニウムファイル 上』から、ナッシュヴィルの妊婦たちの人体実験の実相の一部を紹介したいと思います。



■アイリーン・ウェルサム『プルトニウムファイル 上』渡辺正・訳、翔泳社、2000年 

頁247──「第22章 ナッシュヴィルの妊婦たち」

 戦勝に国じゅうが酔いしれたような数年間、テネシー州ナッシュヴィルにあるヴァンダービルト大学病院の産婦人科クリニックは、若い女性であふれ返った。精いっぱいおめかしした妊婦が、待合室に何列か並ぶ簡素な木のベンチで自分の診察の順番を待っていた。雑誌も音楽もない待合室に、少女のようなおしゃべりが飛び交う。柔らかい南部なまりだ。夫のこと、これから買う家のこと、生まれてくる子供のこと・・・・・・。人種差別がきびしい地のご多分にもれず、クリニックは白人だけ診た。だが妊婦の家庭は裕福ではなかった。たいていは貧しく、治療費も払えるだけしか請求されない。はにかみ屋の彼女たちは、この病院にかかれた幸せをかみしめ、医師の言うことなら黙って従った。<以下略>・・・

頁249──

 1945年9月から47年5月まで、そのクリニックに行って妙なカクテルを飲まされた妊婦が829人いた。ヘレンもそんなひとりだった。みんな、飲んだのは栄養飲料だと信じこまされた。<以下略>・・・


頁252──

 1955年のクリスマス前後、ナッシュヴィルに住むキャロライン・ビューシーという若い娘の太腿に、オレンジ大の腫れ物ができる。小柄であか抜けた母親のエマ・クラフトが、46年の3月初め、ヴァンダービルトの産婦人科クリニックで妊娠を診断された。姉3人も同じクリニックで産んだエマは、ヴァンダービルトが世界一の病院だと思っていた。夫のフロイド・ビューシーは音楽好きな大工で、土曜の夜になるたびグランド・オール・オプリー(ナッシュヴィル名物のウェスタン祭)で楽器を弾き、5ドル稼いでいた。
 診察したクリニックの医師が告げた。4度目のおめでたですよ、7日後にまた来てください・・・・・・。1994年の証言で彼女は、2度目の診察のとき医師にカクテルを飲まされたと語る。そのとき娘キャロラインは13週目の胎児だった。
「飲み物の中身は何だと言われましたか?」と弁護士のアービッドブリット。
「ビタミン類だとおっしゃいました」とエマ。
「ほかに何か?」
「それだけです」
「医師は、それが体にいいとか悪いとか言いましたか?」
「はい。体にいいとおっしゃいました」
 証言ではほかにこんなやりとりもあった。
「1946年の3月より前、放射線のことは何かご存じでしたか?」
「放射線という言葉を聞いたのは、日本に原子爆弾を落としたときが初めてです」
「どんなものだと思いました?」
「そうですね。ああいうものを落として人を殺せたとしても・・・・・・ええと・・・・・・体に入れてはいけないもの、というくらいでしたね」
 キャロラインは46年9月15日に産声を上げる。3週間の早産だった。母乳で育ち、体重はみるみるふえた。出産から8~9日目に退院したときは母子ともに健康だったが、ほどなくエマは両目が腫れて黒ずんできた。「だからまた通院になりました。ぶたれたような目になってひどく腫れ、真っ黒でした。『神さま、目が見えなくなるんですか?』なんて気分でした」。腫れはそのうち引き、元どおりの生活になった。・・・<中略>・・・9歳になったころ、キャロラインの右の太腿に腫れ物があると姉たちが気づく。休暇が終わるまでは誰にも言わないでね、とキャロラインは姉に頼んだ。母親のエマもとうとう腫れ物に気づいて血相を変え、翌日ヴァンダービルト病院に連れていく。切らなきゃだめですね、と医師が言う。エルキン・リピーという別の医師にも診せたら診断は同じ。リピーが手術を請け合ってくれた。
 手術の途中でリピー医師は、キャロラインにがんがあるのを見つける。それを聞いてエマは気を失った。「正気に戻ったとき、お医者さんが言いました『お母さん、みんな摘出しましたよ』」。けれど、がんはぶりかえした。脊髄に広がったあと肺、心臓、喉に、最後は口にまで転移した。・・・<中略>・・・看病の甲斐もなく1958年8月28日、がんの発見からほぼ2年半で娘は神に召される。まだ11歳だった。<以下略>・・・


頁255──

 エマの娘が亡くなって6年後の1964年、ヴァンダービルト大学の新しい研究者グループが、かつて放射性の鉄を飲んだ女性の追跡研究をしようと決める。核兵器開発の歴史上、きわどい時点だった。前年に大気中の核実験が打ち止めになり、降下物の曝露と発がんの関連を科学者がちょうど調べ始めたころだった。
 研究者の世界にはもうひとつ大きな話題があった。少し前の56年、イギリスの医学研究者アリス・ステュアート(※引用者注1)が書いた論文をめぐる騒ぎだ。<以下略>・・・

頁256──

 そこでヴァンダービルトの研究者は、この論争にカタをつけたくなる。むかし産婦人科クリニックで「カクテル」を飲んだ女性は、「医学的に選別した」患者群だ。「カクテル」は、妊婦の健康や栄養状態とは関係なく、クリニックの扉をくぐった女性すべてに飲ませていたから。<以下略>・・・

頁257──

 データのまとめ作業は64年から3年がかりで終わる。まず、放射性の鉄を飲んだ妊婦のカルテを掘り出す。751人分が見つかった。次に、ほぼ同時期に産婦人科クリニックで診断を受け、年齢もほぼ同じだが「カクテル」を飲んでいない「対照群」の妊婦のカルテを集める。対照群として771人分が手に入った。
 そのあと関係者にくわしい質問状を送った。返信がなければ電話で聞いた。<以下略>・・・

頁258── 

 膨大なデータを解析した科学者は、次のことを見つけた。子宮内で放射能を浴びてから産まれた子供は、4人が命にかかわる病気になった。また、対照群にがんは一例もなかった。幼児期のがんはきわめてまれだから、1969年の『アメリカ疫学雑誌』に発表した論文でヘイグストロームと共著者は、調査の結果は「因果関係」をにおわせると結論をくだす。この発見は、「少数とはいえ、統計的に有意な差で・・・・・・既知の放射線生物学的知見とも合う」。死亡した4人は以下だった。

●肝がんで死亡した11歳の男児。兄2人も肝がん死なので放射能と無関係、と注記がある。しかし、兄の死亡年齢は22歳と26歳なので、若年がん死の死因として鉄の放射性が疑われる、と母親の弁護士が指摘している。
●急性リンパ白血病で死亡した11ヶ月の女児。母親が放射性の鉄を飲んだのは妊娠23週目。
●リンパ肉腫で死亡した11歳の男児。母親が放射性の鉄を飲んだのは妊娠20週目。
●右の太腿から肺に転移した滑液肉腫で死亡した11歳の女児。母親が放射性の鉄を飲んだのは妊娠13週目。

 4番目がエマ・クラフトの娘キャロラインだ。すべてが一致する。この論文を見たら、エマは一瞬でそうとわかっただろう。だがエマが論文を目にしたのは、発行から25年後
のことだった。


※引用者注1:射線への低線量被曝がもたらす健康影響を最初に明らかにした科学者アリス・スチュアートについて

■関連資料 <欧州放射線リスク委員会>
アリス・M・スチュアート(Alice Mary Stewart)について
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/Alice_Mary_Stewart.html




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