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「私はハザール人」? ~ ルティ・ジョスコヴィッツ『私のなかの「ユダヤ人」』~

 


▼ルティ・ジョスコヴィッツ『私のなかの「ユダヤ人」』現代企画室、2007年

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頁162──
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 私が自分のアイデンティティを探して父母の国ポーランドに深く関わっていたとき、私につきまとって離れない一つの疑問があった。それは父母の祖先が、いつ頃どこからポーランドに渡ってきたのだろうか、という疑問である。
 ポーランドの歴史にユダヤ人の名が登場するのは、12世紀以降である。一体そのときに何があったのだろう。一般に信じられているユダヤ史では、ドイツにいたユダヤ人が十字軍に追われてポーランドに来たと説明されている。しかし証拠はない。
 そのようなときに、私の手紙を読んだ人が、1冊の本を送ってくれた。夢中になって読んで、私は友人たちに電話をかけまくった。
 「私の祖先が分かったわよ。黒海とカスピ海の間にいたハザール人だったのよ!」
 私の手に入れた本は、アーサー・ケストラーの『13番目の支族』・・・


頁169──
 ハザールの物語は、私に大きな衝撃を与えた。同時に私の心の中に何か安堵のような気持ちが湧き上がってきた。うまく言葉にできないが、私は自分と「約束の地」の関係がきっぱり切れたように思えたのである。私はダビデやソロモンとの血縁が無いことになった。ユダヤ民族の祖先がパレスチナを追われ、悲惨な迫害に生き残り、再びパレスチナに戻るというシオニズムの神話にわずらわされることがなくなるわけである。そして、パレスチナにではなくコーカサスに私の根が求められるということは、不正から自分が解放されることになる。それに私は小さい頃から、スラブの地方に言いようのない懐かしさを感じていたのである。さらに言えば、母がポーランドを逃亡した経路は、故郷に向かう道でもあったのではないか。危急存亡のとき、ポーランドのユダヤ人は、知らず識らず祖先の故国に向かったのではないか。ソ連とソ連領で解放されたユダヤ人が中央アジアを目指したのも、単にそこが暖かかったという以上の何かがあったからではないだろうか。
 しかし最初の興奮がさめたとき、私はこのような形で自分の祖先探しをすることに、何かこだわりを感じ始めた。ハザールは自分のアイデンティティのためではなく、民族や国家や血の不気味な真相を映し出す鏡として、私の中で比重を増した。・・・


頁185──

 イスラエルの状況を知るにつれ、私は猜疑心の固まりになり、何故ユダヤ人が、という思いが絶望感とともに広がったが、たった一つ確信をもって言えることがあるように感じた。それは「選ばれた民」とか「ユダヤ人の純血性」を信じる時代は終わったのだということだった。そしてそのうち、これらの言葉こそファシズムの常套語だったのだと知るようになった。
 ユダヤ人は人種的民族的存在であると考えた人々が、この歴史上に2種類いた。1つはヒトラーを頂点とする反ユダヤ主義者、もう1つはシオニストである。前者のニュールンベルク法は人種差別法として有名だが、そこには「父母または祖父母の1人がユダヤ教徒であれば、その人間はユダヤ人である」と規定してある。イスラエルの現在採用しているユダヤ人定義は「母親がユダヤ人か、あるいはユダヤ教徒」というものである。そしてイスラエルは宗教法の支配のもとに、いよいよ非ユダヤ人差別を進めた。これに対してユネスコは、イスラエルは人種差別国家であると決めつけた。もちろんイスラエル側はそんなことを気にもかけていない。
 ナチスは、同化を求めた人にさえ、ユダヤ民族というアイデンティティを与えた。その人々の死と引き換えに。そしてイスラエルも私たちにユダヤ民族というアイデンティティを与えようとしている。そして今度はパレスチナ人の犠牲の上に、である。私はこのような身分証明はいらない。ハザール人はどうだろうか。シオニズムの描いた世界史にに疑問を感じた私は、ハザールの存在に出会い、自分の祖先はハザール人だった可能性が非常に強いことを知った。私の根が、遠い祖先の時代にパレスチナではなくコーカサスにあったということは、素晴らしい発見であるように思えた。しかし「私はハザール人だ」ということは、現代にどれだけの意味を持つだろう。それはシオニズムの神話を打ち砕くためには有効だ。しかし自己のアイデンティティを掴まえるためには役立たない。それにこれは新しいシオニズムに通じるような気がする。しかも600万人の犠牲者は、ユダヤ人でなくてハザール人だったら殺されなかったわけではない。ヒトラーは人種・民族問題を利用しただけだ。・・・


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