冤罪死刑囚・風間博子さんについて  ②

2013/11/25(月) 午前 8:29

 見込み捜査の見込みが外れた場合には、たいがい予断が邪魔をして証拠確保や証拠検証も不十分であることも多々あり、事件はたいがい迷宮入りするのものだ。恵庭冤罪事件などその典型だろう。

 さて、司法取引については、やはりそれを採用している米国が参考になる。米国ドラマ『CSI』などを見ていると、鑑識課の連中が刑務所の囚人に情報を求める場面は時々出てくる。もちろん「正しい情報」をもらえれば、当然囚人の側にも“見返り”はある。よってここでは「埼玉愛犬家連続殺人事件」の共犯者に検事が与えた“見返り”について確認しておこう。 

▼ 『冤罪File』(2013年11月号・№20)
頁86――
「冤罪疑惑が黙殺され続けた「埼玉愛犬家連続殺人事件」 共犯者が被告人の無罪を証言!」ルポライター片岡健

 頁91――

 実は公判では、山崎が被害者の殺害にも関与した可能性について、捜査機関がちゃんと追求できていなかったことを窺わせる事実も明らかになっている。それは、山崎を取り調べた浦和地検(現さいたま地検)熊谷支部の岩橋義明検事らが捜査中、山崎に様々な利益供与を行っていたことである。それを公判で明るみにしたのは山崎本人だった。
 「別件の容疑で逮捕されていたK子(山崎の妻)の保釈を岩橋検事に頼んだら、本当に保釈してもらえました」
 「逮捕されても接見禁止は一切つかず、K子(山崎の妻)やS子(山崎の前妻)と面会できました」
 「逮捕勾留中は検察庁の電話でK子に電話をかけていました」
 「調書を留置場に持ち帰りたいと言ったら、写しを持ち帰らせてもらいました」
 まさに至れり尽くせりという感じだが、山崎の極めつけの暴露がこれである。
 「検察庁ではK子と部屋で2人きりにしてもらえ、セックスもしました」
 公判に証人出廷した岩橋検事本人は、この「セックス供与」疑惑について、「検察庁での面会では押送の警察官が立ち会っており、2人だけにさせたことはない」と否定している。しかし一方で、山崎が暴露したその他の利益供与の話はすべて事実だと検察側も認めた。
最終弁論で風間さんの第一審の弁護人は山崎について、捜査段階では最小限度の刑事責任を負って切り抜けるため、自分の罪を風間さんにかぶせるような供述をしたのだと主張した。そして、そんな山崎が公判で風間さんのことを無実だと証言したのは、「ぎりぎりの良心」だったのだという見解を述べている。筆者もこの事件を取材してみて、現時点ではこれが真相ではないかと思っている。

(引用終わり)

****

 では、ここで司法取引の本場、米国の密告者についての記事――
 
▼ジム・ドワイヤー、ピーター・ニューフェルド、バリー・シェック『無実を探せ! イノセンス・プロジェクト DNA鑑定で冤罪を晴らした人々』西村邦雄 翻訳、指宿信 監訳、現代人文社、2009年

第6章 密告者

頁145――

 もう1人の収監者、シュナイダー・ストーチは、本人曰く拘禁中に聞いた「自白」20件を警察に提供した「密告教授」であった。彼は、少なくとも6回は法廷で証人となった。どうすれば密告者の話がうまく聞こえるようになるのかについて、もう1人の密告者に忠告する際、ストーチは、真実は障害にはならない、と語った。
 「相手の痛いところを突け――もっとでっち上げなきゃいけなくなるんだよ。だが、そういうもんだって慣れた方がいいって」と彼は隠し録りされた会話の中で言っていた。知名度の高い事件の被疑者と一緒に収監されていたもう1人の収監者にストーチは手紙を書いた。「お前さんには凄いチャンスがあるんだよ――上手に使えばお前さんの刑期は短くできるんじゃないかな・・・・・・。必ず俺に電話をしろよ。俺がお前のために調べてやるさ」
 この「調べ」には、密告者が実際に起きたことと似たような話ができるようにするために、図書館に行って実際の犯罪についての記事を読み返すことが含まれていた。

(引用終わり)

*****

 イノセンス・プロジェクトによると密告者のでっち上げ話で無罪の人間が有罪になったケースは扱った裁判の16%に当たるという。もちろんどの場合でも密告者は話のでっち上げを認めなかった。

 カナダでも1983年に密告者のでっち上げの強かん殺害裁判があり、後(1995年)にDNA鑑定で無罪が確定したが、その際に委員会がその裁判を調査し、拘置所の密告者の取り扱いについて新たな基準を設定した。

以下同書からの引用――
 頁175――

 [・・・今では、密告者が証言する前に、検察上層部の判定委員会自体が、話の内容の裏づけ確認が可能である、それもまさに他の収監者によることなく可能である、ということを納得していなければならない。また判定委員会は、密告者が、テリィ・ホランドがそうであったように、再犯者であるのかどうかを究明しておかねばならない。法廷では、その証言は信頼できないものであるという前提の下で、検事は、同証言が陪審員に提示される前に裁判長に対して聞くに値するものであるということを実証しなければならない。そして最後に、密告者との取引の内容は文書にしなければならず、すべての会話はビデオに録音するかテープに録音されなければならない。]

 というわけで、以上を読んだだけでも「埼玉愛犬家連続殺人事件」の裁判のトンデモは予想されるわけだが、担当裁判官たちは、山崎の捜査段階の供述について、迫真性や臨場感があり、遺体の遺棄場所などの「秘密の暴露」を含むことなどから信用性を認めて、関根と風間博子さんを死刑としたのである。


(続く)

▼[第10回]主観より科学的根拠、捜査も変わった
「無実を探せ! イノセンス・プロジェクト DNA鑑定で冤罪を晴らした人々」 Actual Innocence
バリー・シェック Barry Scheck イノセンス・プロジェクト共同代表

http://globe.asahi.com/author/091005/01_01.html

被害者の思いこみによる目撃証言、自称専門家によるずさんな鑑定結果、人種差別に基づく偏見、やる気のない弁護士……。著者らニューヨークの弁護士が立ち上げたチームは、DNA鑑定を駆使して冤罪を晴らしてきた。その原因を一つ一つ描いたのが本書だ。なぜ無実の人が刑務所に入ってしまったのか。壮大な検証ドキュメントだ。



バリー・シェック氏 photo: Mari Sakamoto――「イノセンス(無実)・プロジェクト」の結果、これだけの冤罪が発覚するとは驚きです。取り組みを始めたときに予想していましたか。
シェック DNA鑑定という武器を手にしたとき、とても重大な結果をもたらすことだろうと、私は最初から思っていました。出版されたあとも増えて、無罪が明らかになったのは242人になりました。
問題は、これまで鑑定で科学的と思われていた証拠も、実はきちんとした根拠が定まっていなかったことなのです。例えば、銃弾に残る線条痕。それとどこまで一致すれば、犯行に使われた銃とみなせるのか。その判断には、刑事の経験という不確かな根拠がものを言ってきました。
指紋もそうです。スペインのテロ事件の容疑者として逮捕された無実の人も、指紋が決め手でしたが、あくまでも、データベースと照合したときに「比較的近い」というあいまいな理由でした。
事件が大きければ、なんとかして犯人を挙げなければという圧力が高まり、主観が働いてしまいます。DNA鑑定が導入されたことで、主観を排した科学的根拠を導入する動きが相次いでいます。捜査のあり方が大きく変わりました。

無実を助けるだけでなく本当の犯人を捕まえる
――捜査当局の対応は。
シェック 変わってきました。最初の頃は、「どうせ弁護士が言っているだけ」という対応でしたけど。検察側も弁護側もそして裁判所も、無実の人が刑務所に入れば、本当の犯人は野に放たれたままになり、さらなる犯行を繰り返す恐れがあるという点では一致しているのです。
DNA鑑定で242人を無罪にした過程で、105人の本当の犯人が捕まりました。だからこそ、17年にわたる我々の活動は、日増しに捜査側の協力を得られるようになりました。冤罪を晴らす活動は、犯罪に甘いという批判を受けがちですが、社会の安全につながると理解を得られるようになりました。




――冤罪が起きた原因として、被害者の目撃証言のあいまいさや誤解にも焦点を当てています。日本でも目撃証言はとても重視されているだけに、気になります。
シェック 被害者は、その時は、うそをついているわけではありません。被害者も間違ってしまう、思いこんでしまう、という事実を直視すべきです。被害者に、捜査線上で浮かんだ容疑者の写真を、ほかの人物の写真と交ぜて見せるとき、「この中には、容疑者がいない可能性があります」と告げるだけで、間違いが起きる確率を小さくできるという研究があります。要は捜査当局のやり方次第です。

(次ページへ続く)

バリー・シェック
1949年生まれ。60歳。
エール大、カリフォルニア大バークレーなどを経て、弁護士。ニューヨークのヤシーバ大のカードーゾ・ロー・スクール教授。
92年にピーター・ニューフェルドとともに「イノセンス・プロジェクト」を立ち上げる。
無罪を勝ち取ったO・J・シンプソン裁判の弁護チームにも参加した。


▼[第10回]主観より科学的根拠、捜査も変わった
「無実を探せ! イノセンス・プロジェクト DNA鑑定で冤罪を晴らした人々」 Actual Innocence
バリー・シェック Barry Scheck イノセンス・プロジェクト共同代表
http://globe.asahi.com/author/091005/01_02.html

――容疑者自身の誤った「自白」も問題にしています。捜査側の誘導尋問をなくすには、どうしたらいいのでしょうか。
シェック 虚偽の自白を避けるには、取り調べのビデオ録画が最良の手段です。犯人か捜査関係者しか知り得ない内容を、尋問側が容疑者側にほのめかしていないか、チェックしなければいけない。
米イリノイ州では、死刑囚の冤罪が明らかになって、計171人の死刑囚が減刑・恩赦になりました。そのため、州では取り調べのビデオ録画を義務づける法律をつくったのですが、当時、州議会議員として法律の制定に奔走したのが、オバマ大統領だったということはあまり知られていません。

間違いを認めれば捜査側への信頼も高まる

――本に登場する捜査関係者は、無実の人を刑務所に入れながら、誰も謝罪したり、責任を取ったりしていません。
シェック 米国では、日本のように「恥」の文化もありませんしね(笑)。第一に、人間の習性として、過ちを認めたくない。次に、被害者への配慮です。犯罪に苦しむ人に「我々が犯人だと思い、あなたが極悪人だと思っていた人は間違いでした」とはなかなか言いづらい。その気持ちはよく分かる。
冤罪が発覚したときの被害者の心理的負担は大きいだけに、我々のプロジェクトでは、新聞に出る前に被害者に伝えるよう捜査当局に求めています。
そして、最後に、現在の捜査への影響でしょう。検察側は、現在進行中の法廷で、検察側証人や鑑定結果に対する信頼性を損なうことを恐れます。米テキサス州ダラスでは、証拠物が保存されていたため、検察側が積極的に過去の捜査を検証した結果、多くの冤罪が発覚しました。信頼が落ちたかというとその逆で、間違いもきちんと認めることで、地域での評価が高まりました。




――各章の一つ一つのエピソードにドラマが詰まっていて、それぞれで一冊の本が書けそうな気がします。
シェック 作家のジョン・グリシャムは、ある章で取り上げた事件を実際に本にしています。だからこそ私たちの本も10年近く、出版され続けているのだと思います。出版時から変わったこともあるし、変わっていないこともある。
改訂版を出すことも検討しています。それと、私とピーター・ニューフェルド氏は弁護士ですが、ジム・ドワイヤー氏は、ピュリツァー賞を2度受賞したことがあるベテラン新聞記者です。彼がいなかったら、こうした読み物にはできなかった。




――そもそもなぜ、弁護士を目指したのですか。
シェック 奨学金であこがれのカリフォルニアの大学に行けることになったから(笑)。それはさておき、公民権運動が激しかった60年代に育ったからでしょう。ロバート・ケネディ上院議員の選挙運動にも携わりましたが、暗殺されてしまい、政治には幻滅しました。法律が社会を変える手段でした。


(聞き手 ニューヨーク支局 田中光)

▼恵庭冤罪事件被害者支援会
http://www4.ocn.ne.jp/~sien/

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