NHKから国民を守る党(N国)が参院選比例区で1議席を得た。候補者たちは選挙運動で、国政に関する態度は示さず、ひたすら一つのフレーズを繰り返した。「NHKをぶっ壊す」。この作戦で、選挙区で計3・02%の票を得て、国庫から政党交付金を受ける資格も得た。何が起きたのか。

 22日午前4時10分。NHKが、党代表の立花孝志氏(51)の当選確実を速報した直後だった。「勝ったぞ!」。立花氏は拳を突き上げた。「結党から6年。目標どおり国会議員になりました」。都内のビルに設けた会見場で、党所属の地方議員や参院選の候補者ら30人あまりと喜んだ。

 選挙戦で立花氏が打ち出したのは、受信料を払った人だけがNHKを視聴できるようにするスクランブル放送の実現だ。政見放送では「NHKをぶっ壊す」を連呼。NHK職員の不倫を繰り返し話題にし、「さあ、テレビの前のあなたもご一緒に『NHKをぶっ壊す』」。候補者の中には、時間内で一言も発しない男性や寸劇を繰り広げる女性もいた。動画サイトのユーチューブでも配信し、再生回数は300万回以上にのぼった。自民党が公式チャンネルにあげた安倍首相のCM再生回数(約240万回)をも上回った。

 一方で消費増税社会保障といった課題への態度は示さず、かわりに党員の多数決で政策ごとに賛否を決める考えを掲げた。ただし「自民党がNHKのスクランブル放送をやってもいいというのなら、憲法改正に賛成する」と立花氏は22日の動画で述べている。

くら替え、選挙区擁立…すべてN国の「戦略」

 狙いどおり政党要件を満たしたことで、N国は約5900万円の政党交付金を受けとる見通しだ。立花氏は当選会見の場で早くも「ぼくが衆議院にくら替えする可能性は極めて高い」と語った。

 「くら替え」は立花氏が繰り返すPR手段だ。

 元NHK職員の立花氏は、2013年にN国を設立。15年に千葉県船橋市議選に初当選した。市議ながら、地域課題の解決は訴えず、NHKの集金人の戸別訪問規制などを唱える一方、受信料をめぐって司法の場でたびたびNHKと争った。

 船橋市議を1年あまりつとめると、都知事選に挑み、落選。17年には東京都葛飾区議になったが、こちらも1年半ほどで辞め、大阪・堺市長選へ。落選後、すぐさま参院選に出た。

 この間、党勢は拡大し、19年の統一地方選では、東京都千葉県などで26人の公認候補を当選させた。

 「地方選は、国政進出への資金稼ぎのため」と立花氏は公言してはばからない。ネット中心の訴えでも戦えるとして、狙いを参院比例区に設定。比例区に出るには、10人以上の候補を擁し、最低でも3千万円を超える供託金を用意しなければならない。地方議員が増えれば、その給与から借りることができる――という逆算だ。

 実際、今回は地方議員一人につき130万円を党に納めさせた。政党交付金で返済する予定だという。

 参院選挙区に候補者37人を立てたのも「(党の名を広める)売名のため」「(彼らを)当選させるつもりはない」と語っていた。

電話で候補者選び、「ユーチューブ使えるか」

 党として、候補者一人ひとりの信条や経歴などを細かく問うことはしない。参院選での候補者選びは主に電話で済ませた。基準はユーチューブを使いこなせるかどうか。ある候補者は、自分がどこから出馬するのかを「動画で知りました。代表からの連絡? ありませんよ」。関西地方で立候補した男性は政見放送のみの露出で、ポスターも名刺も作らなかった。「選挙期間中は家で寝ていた」と語った。

 こうした「来るものは拒まず」の党の姿勢もあり、N国公認でこれまでに当選した地方議員の中には、不適切な言動が確認できるケースが少なくない。

 兵庫県のある女性市議は10年、徳島県教職員組合の事務所に「在日特権を許さない市民の会」の会員らと侵入し、「売国奴」などと罵声を浴びせた。威力業務妨害罪に問われ、罰金刑が確定した。

 統一地方選では、「アイヌ民族なんて、もういない」とツイッターに書いて批判を浴びた元札幌市議が都内の区議になった。別の男性区議は当選後、韓国と取引する日本企業について「売国国賊企業」と配信動画で語った。どちらもすでに党を除名されたが、無所属で議員を続けている。

 そして立花氏は当選後の会見で、北方領土で酒に酔って「戦争しないとどうしようもなくないですか」と発言した丸山穂高衆院議員らに入党を呼びかける考えを示した。日本維新の会を除名になっている。狙っているのは、さらなる勢力拡大だ。次の衆院選では全国11の全比例ブロックで候補者をたてる方針だという。

なぜ投票した? 40歳女性「政見放送が」

 有権者はなぜN国に票を投じたのか。「立花氏はゼロから市議になって、統一地方選で大幅に議席を得た。(政党の)ステップアップが見えやすい」というのは、東京都品川区の男性会社員(27)だ。既存政党の政策は、実効性が乏しいと感じてきた。「過激な政党が生まれることで、危機感を持ってもらいたい」

 埼玉県越谷市の会社員、飯村竜太さん(47)は、自分の意見を反映できるというN国が掲げた「直接民主主義」的な制度にひかれた。政見放送に当初は嫌悪感を抱いたが、立花氏の動画を見るうち「一つのことを訴え続けて本気だ」と思うようになったという。NHKに不信感はないが、スクランブル放送にも賛成する。

 千葉県船橋市の女性会社員(40)は「NHKの集金人に何回も来られて怖い思いをした」と話す。そしてこう言った。「政見放送がすごく面白かった」