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世間はパワハラを許さない TKO木下退所でお笑い界戦々恐々

世間はパワハラを許さない TKO木下退所でお笑い界戦々恐々

公開日: 更新日:
   



「ある意味、絶妙のタイミングですよね」(在京キー局関係者)



 お笑いコンビ「TKO」の木下隆行(48)が今月15日に松竹芸能を退所すると5日、同社の公式サイトで“電撃発表”された一件。

 木下は昨年、週刊文春(10月10日号)などに、後輩芸人の「オジンオズボーン」篠宮暁(37)にペットボトルを投げつけて左目を負傷させたとか、「安田大サーカスクロちゃん(43)に土下座させて足蹴にしたなどの“パワハラ”や“金銭トラブル”を報じられ、活動を自粛していた。

「表向きは事務所と話し合った末の“円満退所”となっていますが、矢作兼(おぎやはぎ)も自身のラジオ番組で『クビだろ?』と言っていましたし……今なら、世間の関心は新型コロナウイルスに集中していますからねえ」(前出の在京キー局関係者)

それに被害者の篠宮は最近、「秒で漢字暗記」という動画が人気で、「オジンオズボーン篠宮暁の秒で暗記! 漢字ドリル」(宝島社)という本を先月出版したばかり。

「ゲスぶりが売りのクロちゃんも、はっきり言って木下より人気があります。内輪では金銭トラブルの方が問題視されたようですが、いずれにせよ、下手に木下をかばって騒動を引っ張りたくないというのが、関係者の本音じゃないですか」(芸能プロ関係者)


 木下は退所後、フリーで活動、相方の木本武宏(48)は事務所に残り、コンビは継続するという。芸能ライターの吉崎まもる氏が言う。

「木下自身もパワハラ騒動が発覚した当初は、ここまで反発を食らうとは思っていなかったようで、焦って周囲に相談しまくったそうです。それで“みそぎ”のためにボランティア活動をしたり、お遍路巡りをしたなどと一部で報じられましたが、世間は許してくれなかった……」

 コンプライアンスの時代。木下の一件で改めて分かったのは、世の中のパワハラに対する憎悪は凄まじいということだ。

「コンビは継続するので復帰の目もなくはないですし、30年近く所属したベテラン芸人に対する事務所の“恩情”もあるのかもしれませんが、現実は厳しい。木下のパワハラは、報じられている以外にもあるとみられている。復帰した途端に新たな騒動が噴出したら……テレビ局も怖くて使えないでしょう」(吉崎まもる氏)

お笑い界のパワハラの噂は、何も木下に限った話じゃない。戦々恐々の芸人がほかにいたとしても不思議じゃない。

「パワハラ自殺」提訴 新入社員母、労災求め 

中部電力
「パワハラ自殺」提訴 新入社員母、労災求め 

 

会員限定有料記事 毎日新聞2017年6月15日 21時57分(最終更新 6月15日 22時00分)
https://mainichi.jp/articles/20170616/k00/00m/040/113000c
三重県

 
 中部電力の社員だった鈴木陽介さん(当時26歳)が入社7カ月後の2010年10月に自殺したのは、過大な業務と上司によるパワーハラスメントが原因として、母の吉田典子さん(55)が15日、労災と認めなかった津労働基準監督署の処分取り消しを求めて名古屋地裁に提訴した。

 訴状によると、鈴木さんは10年4月に入社し半月の研修を経て配属された三重支店(津市)で、企業に省エネを提案する業務に就いた。入社後おおむね1年は実務教育期間とされているのに6月ごろから、会社の支援態勢がないまま新入社員にとっては過大な業…


被害者の立場の配慮

■大和田敢太『職場のハラスメント なぜ起こり、どう対処すべきか』中公新書、2018年
頁132──
③被害者の立場の配慮
 指導が、相手の立場や状況を考慮していない場合に、ハラスメントとなる事例がある。たとえば、精神疾患による通院歴がある労働者に対する配慮を欠いた指導がハラスメントとなっている。
 ハラスメントの加害者や使用者の責任が問われる時に、被害者の特別な事情から、被害は例外的に発生し、想定外であったといった弁解がなされることがある。そこで、個別の労働者の事情を考慮すべきかどうか、あるいは配慮すべき立場にある労働者を前提として結果を予測しておくべきかが問題となる。
 被害者が「平均的人間像(合理的人間像)」であれば、適切な対応をしたであろうとか、被害は大きくならなかったと加害者側が主張しても、責任を免れることはできない。
 これには、労災の認定において、「平均的労働者の最下限の者」あるいは「社会通念上、精神疾患を発症させる危険性の有無については、同種の労働者(職種、職場における地位や年齢、経験等が類似する者で、業務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある者)の中で、その性格傾向が最も脆弱である者」(中部電力事件、2006年)を想定しなければならないとされていることが参考になるだろう。<以下略>・・・




【事例紹介】1999年 中部電力主任の焼身自殺事件を紹介します。

2012-02-02 18:16:09 | 事例紹介

https://blog.goo.ne.jp/stopkaroshi/e/a410b7a287450531a239fb2ae0952dff

 過重ノルマが生み出す過労とパワハラの果てに

 1999年11月8日、中部電力火力発電所の環境設備課主任だった関川洋一さん(参考文献中の仮名)が、知多半島の野間灯台近の空き地で、36歳の若さでガソリンをかぶって焼身自殺を遂げました。8月に主任に昇格してから一挙に増えた時間外労働と、度重なる上司からのパワハラの末の、すさまじいばかりの死でした。

 関川さんは、環境設備課の「燃料グループ」に配属されていました。燃料グループの主な業務は、中電火力発電所の諸工事の予算算定と着工の手続きを行う「工事件名」と、技術・コスト上の問題点の検討を行う「検討件名」との2つです。具体的には、8月に発電所から諸工事の資料が提出されるのを受けて、関川さんを含む担当者6人で夏から秋にかけて予算編成作業を行い、10~11月の課長ヒアリングで工事の必要性・内容・予算規模などについて説明をするための書類作成に追われるという時期でした。

 関川さんの時間外労働時間は、6月は51時間、7月は62時間だったのに対し、8月に86時間、9月に94時間、10月に117時間、11月の死亡前7日間で40時間の時間外労働にまでのぼっていました。主任に昇格した8月以降は、過労死ラインを大きく超える明らかな長時間労働です。9月の下旬には、関川さんは早朝覚醒などうつ病の症状を訴えるようになっていました。

 この事件のもう一つの問題は、課長によるパワハラでした。課長は、要領の悪い部下を嫌い、そういった部下に対しては人格を否定するような発言さえ辞さない人物でした。そして関川さんは課長に嫌われていて、繰り返し「お前なんかいてもいなくても同じだ」「お前なんか主任失格だ」などという言葉を投げつけられていました。また、関川さんがいつもしていたシンプルな銀の結婚指輪を課長が気に入らなかったのか、「目障りだから、そんなちゃらちゃらしたもの」は外せと迫られていました。関川さんは何も反論しませんでしたが、指輪を外すことは拒み続けました。

 11月7日、亡くなる前日も日曜出勤した関川さんは、夕方に8日の妻の美緒さん(同書中の仮名)の誕生日を祝う花束を持って帰宅しました。子どもがとった2人の写真には、関川さんの消耗しきった顔が写っています。翌8日、関川さんはいつものように朝6時に車で家を出ましたが、会社には風邪で休むと伝え知多半島へと走りました。亡くなった場所、知多半島の野間灯台近くは、美緒さんと結婚前によくデートした、そしていつかの夏休みに家族と海水浴に出かけた場所でした。13時半、消防隊が全焼した車から2・3メートルの位置で亡くなっている関川さんを発見しました。結婚指輪は遺体にはなく、美緒さんの小物入れの中にありました。関川さんは、課長の結婚指輪を外せという要求だけは拒み通し、かけがえのない美緒さんとの関係の証を、無傷のまま残したのです。


 能力評価・パワハラと長時間労働

 2000年に出した労災認定申請が棄却されたため、美緒さんは03年に名古屋地裁に遺族補償年金などの不支給処分の取り消し請求の行政訴訟を起こしました。そして06年地裁で原告勝訴し、07年に、国・労基署側が控訴した名古屋高裁で原告全面勝訴の判決を勝ち取りました。

 中部電力は、初めから遺族に対して強硬姿勢で、行政裁判中は【業務量―長時間労働―うつ病―自殺】という連関を断ち切ろうとする国側の主張に論拠と資料を提供することに努めました。また、課長以下上司たちは長時間労働の実態を知らなかったといい募り、業務量は適正だった、それほど働かなければならなかったのは関川さんの能力が低かったためだと主張しました。うつ病も能力不足からくる焦りのためであり、課長による「指導」も能力不足の関川さんには必要な範囲だったと正当化しようとしたのです。加えて関川さんを追い詰めたのは美緒さんの配慮のなさだと結論付けようとさえしていました。

 しかし、関川さんの能力は、高裁判決が述べるように、せいぜい期待される主任としては今一つといった水準だったというのが正確なところです。高裁判決では、業務を詳しく検討してその労働の過重性を認めるとともに、上司らの支援不足こそを指摘し、課長の指導はパワハラにほかならないと断じました。業務起因性、つまり職場の出来事の労働者にとってのインパクトがより明瞭に認定されることになったのです。07年にしてやっと、【「能力評定」―上司のパワハラ―長時間労働】という今きわめて普遍的にみられる職場のしんどさに、メスを入れられる判示ができたといえます。

 この事例にみられるような、罵詈雑言や私生活への介入といった上司のパワハラは、企業体質の古さや上司自身の「品格」の低さを示していることは明らかです。しかしその根底には、企業の命運がかかっている過重なチームノルマをなんとしても達成しようとする意識があります。

 過労死防止基本法制定によって、過労死はあってはならないという社会的な合意を示し、国や企業の責任を明確にすることは、企業が過重なノルマを課すことを制限し、ゆくゆくは無理な長時間労働やパワハラで部下を動かそうとする上司をなくしていくことにつながるはずです。過労死防止基本法の制定は、長時間労働やうつ、パワハラといった問題を解決するための最初の一歩です。ぜひ署名集めにご協力ください。
(京都大学法学部一回生)


(参考文献) 熊沢誠『働きすぎに斃れて―過労死・過労自殺の語る労働史』岩波書店 2010



■判例データベース

名古屋南労基署長(C社)うつ病自殺事件【うつ病・自殺】

https://joseishugyo.mhlw.go.jp/joho/data/20080905135247.html

事件の分類
うつ病・自殺
事件名
名古屋南労基署長(C社)うつ病自殺事件【うつ病・自殺】
事件番号
名古屋地裁 − 平成15年(行ウ)第18号
当事者
原告 個人1名
被告 名古屋南労働基準監督署長
業種
公務
判決・決定
判決
判決決定年月日
2006年05月17日
判決決定区分
認容(控訴)
事件の概要
 T(昭和38年生)は、高校卒業後の昭和57年4月、電気供給事業を主たる業とするC社に入社し、幾つかの業務を経て、平成9年8月より火力センター工事第一部環境整備課に配属され、平成11年8月、同課の主任に昇格した者である。

 Tは、仕事を抱え込み、思い悩む性格であり、課長から厳しい指導を受け、時間外労働時間数が平成11年6月以降急増し、主任昇格が心理的負担となり、しかも平成11年度上期の人事考課が5段階の最低評価である「E」であったことなどから、同年9月下旬頃うつ病を発症し、同年11月8日に自家用車の車内で焼身自殺をした。
 Tの妻である原告は、Tの自殺は業務に起因するうつ病によるものであるから、業務上災害であるとして、平成12年10月19日、被告に対し労災保険法に基づき、遺族補償年金及び葬祭料の支給を請求した。これに対し被告は、Tの自殺は業務上の事由によるものとは認められないとして、平成14年5月31日付けで各不支給決定をした。原告は、この処分を不服として、同年7月1日に審査請求をしたが、3ヶ月を経過しても決定がされないため同年12月30日、労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、これも3ヶ月を経過しても裁決がなされなかったことから、本訴を提起した。
主文
1 被告が原告に対して平成14年5月31日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
判決要旨
1 業務起因性の判断基準

 労災保険給付の対象となる業務上の疾病については、労働基準法75条2項に基づいて定められた労働基準法施行規則35条により同規則別表第1の2に列挙されており、精神疾患であるうつ病の発症が労災保険給付の対象となるためには、同別表第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当することが必要である。そして、業務と疾病との間に業務起因性があるというためには、労災補償制度の趣旨に照らせば、単に当該業務と傷病等との間に条件関係が存在するのみならず、社会通念上、業務に内在又は通常随伴する危険の現実化としての死傷病等が発生したと法的に評価されること、すなわち相当因果関係の存在が必要であると解するのが相当である。

 業務と精神疾患の発症や増悪との間に相当因果関係が肯定されるためには、単に業務が他の原因と協働して精神疾患を発症又は増悪させた原因であると認められるだけだは足りず、当該業務自体が、社会通念上当該精神疾患を発症又は増悪させる一定程度以上の危険性を内在又は随伴していることが必要であると解するのが相当である。そして、現在の医学的知見によれば、環境由来のストレスと個体側の反応性、脆弱性との関係で精神破綻が生じるか否かが決まり、ストレスが非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こるし、反対に個体側の脆弱性が大きければ、ストレスが小さくても破綻が生ずるとする「ストレス脆弱性」理論が合理的と認められる。したがって、業務とうつ病の発症、増悪との間の相当因果関係の存否を判断するに当たっては、うつ病に関する医学的知見を踏まえて、発症前の業務内容及び生活状況並びにこれらが労働者に与える心身的負担の有無や程度、更には当該労働者の基礎疾患等の身体的要因や、うつ病に親和的な性格等の個体側の要因等を具体的かつ総合的に検討し、社会通念に照らして判断するのが相当である。また、相当因果関係の判断基準である、社会通念上、精神疾患を発症させる一定以上の危険性の有無については、同種労働者(職種、職場における地位や年齢、経験等が類似する者で、業務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある者)の中でその性格的傾向が最も脆弱である者(ただし、性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準とするのが相当である。

 なお、労災保険法12条の2の2第1項は、労働者の故意による事故を労災保険の給付対象から除外しているが、自殺行為にように外形的に労働者の意思的行為とみられる行為によって事故が発生した場合であっても、その行為が業務に起因して発生したうつ病の症状として発現したと認められる場合には、労働者の自由な意思に基づく行為とはいえないから、上記条項の「故意」には該当しないものと解される。そして判断指針においては、業務による心理的負荷により精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には、精神障害によって正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し、原則として業務起因性を認めるものとしているが、この考え方は妥当なものである。

2 Tに対する業務上の心理的負荷

 C社における業務がTのうつ病発症の要因の一つになっていたこと自体は明らかであり、業務の過重性については、心身的負荷の性質上、本人が置かれた立場や状況を十分斟酌して出来事の持つ意味合いを把握した上で、心身的負荷の強度を客観的見地から評価することが必要である。

 Tの業務は、必ずしも締切や期限に追われるような性質のものではなかったが、Tは自らの担当業務について思い悩んでしまう傾向があったため、進捗状況が必ずしもはかばかしいものではなく、平成11年度上期のTに対する人事評価は極めて低く、自己に対する評価等により自信を喪失していたものと推認することができる。以上に照らせば、Tは仕事の進め方についての問題点や自らの業務遂行能力を十分自覚していたものであり、Tが真面目で責任感が強い性格であったからこそより一層担当業務に従事することによって、決して強度ではないにしても、心理的負荷を募らせていった状況に置かれていたことが窺われる。

 Tの上司である課長は、課員にとっては概して厳しい者であり、Tに対する指導の頻度も相当程度多く、その内容も厳しいものであったと推認することができ、時としてTの心情等について配慮に欠ける言い方で指導することもあったことが窺われる。Tは、前記のように業務遂行能力上の問題点を有していたため、課長の的確な指導を受けても、その指導に沿って問題を解決したり、要領よく仕事を進めることができなかったことから、課長から再々同じ事項について指導を受けるなどしたことが窺われるところ、Tはそれが専ら自己の責任であると考え、それが仕事に対する自信の喪失につながり、課長の指導等に対し萎縮的な態度を示すようになっていったと推認することができる。上記に照らせば、課長のTに対する日常的な業務上の指導等も、徐々にではあるが継続的にTに対し心理的負荷を及ぼしていったことが窺われる。そして、Tの性格、業務遂行能力、同人が置かれていた状況等に照らせば、Tは同種労働者の中でその性格傾向が最も脆弱である者に極めて近似する性格傾向を有する者であったということができる。

 Tは、平成11年8月、環境整備課の主任に昇格したが、これがTを奮起させ、励みになった面があったことは否めないものの、他方で、相当程度の心理的負荷を及ぼしたことが容易に窺われる。その上、Tが主任に昇格した際、課長はTに対し、「主任としての心構え」と題する文書の作成・提出を指導し、更にTが同文書を提出した後、書き直しを指示したと認められ、これを作成する過程で、課長がTに対し問題点を事細かに指摘したことが推認でき、Tはより一層の心理的重圧を覚えたと推認することができる。課長としては、主任としての自覚や奮起を促す意図で実施していたとしても、独自の方法であり、すべての主任昇格者にとって効果的な指導方法であったとは認められないばかりか、内容面についても、仕事に対する矜持や生活信条等を不用意に傷つけかねない危険性をはらんでいると認められるから、Tのように業務遂行上の問題点を抱えており、仕事に対する自信を喪失した者にとっては、かえって心理的重圧を与えるだけの結果になりかねないと認められるから、Tが主任に昇格した事実は、課長の指導方法等とも相俟って、Tに対し相当程度の心理的負荷を及ぼしたと認められる。

 Tの担当業務は、その業務量や業務の内容だけに着目すれば、量的にも質的にもさほど困難又は複雑な性質の業務であったとは認められず、Tに対して大きな心理的負荷を与えるようなものとは認め難い。しかしながら、Tは業務遂行上の問題点を抱えており、要領良く仕事をすることができなかったこと、課長の指導に対し萎縮的な態度を示すようになったことなど、Tの時間外労働時間数を併せ考慮すれば、Tの担当業務は、相当程度の心理的負荷を及ぼしていたものと推認することができる。

 Tの平成11年における各月の時間外労働時間数は、6月:51時間17分、7月:61時間44分、8月:86時間24分、9月:93時間57分、10月:117時間12分、11月:39時間52分となっており、Tが同年6月以降徐々に増加傾向にあった時間外労働に従事し、とりわけ、Tが主任に昇格した同年8月以降は1ヶ月80時間を超える時間外労働に従事したことによって、精神的・肉体的な疲労を蓄積させ、強い心理的負荷を受けたと認めることができる。被告は、Tは平成11年9月下旬頃にうつ病を発症したところ、Tが長時間にわたり在社したのは、うつ病により同じ業務をこなすのに従前よりも多くの時間を費やした等の事情によるものであるから、業務の過重性に結びつけることは相当でないと主張する。しかし、仮にうつ病発症が仕事の能率の低下など業務遂行に影響を及ぼし、そのためTの労働時間が増加していったとしても、C社はそのことを容認していたというべきであり、Tが長時間の時間外労働に従事していたことは否定することができない。

 平成11年10月末頃、課長はTと面談した際、Tの結婚指輪に目をとめ、勤務中は結婚指輪を外すよう指示したことに照らせば、課長は結婚指輪を身に着けることが仕事に対する集中力低下の原因となるという全く独自の見解に基づいて、Tに対し指輪を外すよう発言したと認められるところ、かかる課長のTに対する発言は合理的な理由に基づくものではなく、しかもTに対する配慮を欠いた極めて不適切な内容の発言であったといわざるを得ない。そして、Tが原告と結婚した以降、常時指輪を身につけていた事実に照らせば、結婚指輪に関する課長の発言が、Tに対し強い心理的負担を及ぼし、既に発症していたうつ病を増悪させたものと認められる。

3 業務以外の出来事による心理的負荷とTの個体側の要因

 Tらが平成9年3月に転居した原因が、他の社宅入居者との間で悶着が起こったことであった事実は認められるものの、その他に格別家族関係で問題となったような事情は認められない。また、Tは住宅ローンの債務を負っていたものの、これによって金銭的に困窮していたという事情もなく、その他業務外の出来事による心理的負荷が強度なものであったと認めるに足りる事情は窺われない。

 Tには精神障害と関連する疾患についての既往歴はなく、その家族についても精神障害の既往歴はない。また、Tの性格が、几帳面で真面目で責任感が強いというものであり、物事を抱え込んだり、考え込んだりしてしまう傾向も認められるところ、うつ病に関する医学的知見に照らせば、うつ病に親和的なものであったということはできるが、その性格が通常人の正常な範囲を逸脱して偏ったものであるということはできない。

4 総合評価

 Tは、日常的担当業務に従事したこと自体や、課長による業務上の指導等によって、継続的かつ恒常的に心理的負荷を募らせていった状況に置かれていたこと、Tが平成11年8月1日に主任に昇格したことによって相当程度の心理的負荷を受けたこと、平成11年度にTが従事した業務は、業務量や業務の内容だけに着目すれば、さほど困難又は複雑な性質の業務ではなかったが、上記状況に置かれていたことや増加傾向にあった時間外労働と相俟って、Tに対し相当程度の心理的負荷を与えていたと推認できること、平成11年8月以降、時間外労働時間数が顕著に増加したことによって、Tは精神的・肉体的な疲労を蓄積させ、強い心理的負荷を受けたこと、業務以外の出来事による心理的負荷が強度なものであったとは認められないこと、Tはうつ病に親和的な性格傾向を有してはいたが、通常人の正常な範囲を逸脱したものではなかったことを総合考慮すれば、Tのうつ病は、継続的かつ恒常的に心理的負荷を募らせていった状況の下、時間外労働の増加を伴う業務に従事したこと及び主任に昇格したことによる心理的負荷とTのうつ病に親和的な性格傾向が相乗的に影響し合って発症したものと認めるのが相当である。そして、うつ病を発症した同年9月以降も長時間にわたる時間外労働に従事し、更に結婚指輪に関する課長の発言等によってうつ病を急激に増悪させた結果、Tはうつ病による希死念慮の下、発作的に自殺したものというべきである。

 したがって、前記業務等による心理的負荷は、Tに対し、社会通念上、うつ病の発症のみならず増悪の点でも、一定程度以上の危険性を有するものであったと認められるから、Tのうつ病の発症及び増悪は、業務に内在する危険性が現実化したものといわざるを得ず、業務とTのうつ病の発症及び増悪との間には相当因果関係が認められる。そして、Tの自殺は、同人のうつ病の症状として発現したものであるから、労災保険法12条の2の2第1項の「故意」には該当しないものである。
 以上によれば、Tのうつ病の発症及び増悪とこれに基づくTの自殺には業務起因性が認められるから、これを否定した本件各処分はいずれも違法であるといわざるを得ない。
適用法規・条文
07:労働基準法75条2項、
労災保険法12条の2の2第1項、16条の2、17条
収録文献(出典)
労働判例918号14頁
その他特記事項
本件は控訴された。

各国報告 職場のいじめ・嫌がらせ

各国報告4 職場のいじめ・嫌がらせ—ドイツの現状
第65回労働政策フォーラム

欧州諸国における職場のいじめ・嫌がらせの現状と取り組み
(2013年2月28日)

マルティン・ヴォルメラート  弁護士

写真:マルティン・ヴォルメラート氏

ドイツにおける職場のいじめの概況

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20130228/houkoku/04_houkoku4.html

ドイツではいじめをモビング(mobbing)と呼ぶことがあります。ドイツにおける職場のいじめの発生率は、全労働者数の3.5%、140万人です。すなわち2社に1社で、少なくとも1人がいじめの被害にあっています。4~9人に1人の従業員が職場でいじめを経験しています。頻繁にいじめにさらされている人もいれば、まったくいじめに遭わない人もいます。

職場のいじめは民間部門だけでなく、公共部門でも発生しています。過去20年間をみると、民間部門のほうが多く発生している時期もあれば、公共部門で多く発生している時期もあります。これには、ドイツの経済状況が影響しています。どちらかというと、中小企業で多く発生しています。学校、病院、幼稚園でもよく起きています。

こうした背景もあって、ドイツには労働組合とは別の組織として、事業所委員会が数多く設置されています。とくに、大手企業の事業所委員会の活動は活発です。

職場のいじめの被害者を男女別にみると、3分の2から4分の3が女性です。年齢別には、初期の頃は若年層と高齢層に対するいじめが多かったのですが、現在は30歳~49歳で多くなっています。いわゆるキャリアグループと呼ばれる、会社内で昇進しようとしているグループにおいて、職場のいじめが数多く確認されています。職場のいじめの約50%は上司によって、残りの約50%は同僚によって行われています。また、極めてまれな事例(1.5~3.5%)として部下によるいじめがあります。これらの数値は、経済状況によって変動します。企業の業績が悪いときは上司によるいじめが多く、逆に業績の良いときは同僚によるいじめが多くなります。

いじめの種類は、言葉によるいじめが顕著です。一方で、ネットによるいじめはそれほど多くありません。ドイツでは年間約1万人の自殺者が出ていますが、そのうち約7500人が男性、約2500人が女性となっています。自殺者の20%はいじめが原因で自殺しており、その内訳は男性約1500人、女性約500人となっています。

見て見ぬ振りをする人たち

いじめの問題を語るときに、Moglichmacher(メークリヒマッヒャー)と呼ばれる人たちがいます。いじめを目撃しても、その状況を気に留めず、結果としてそのいじめの状況を継続させ、見て見ぬ振りをする人たちのことです。彼らがいじめの過程に介入したなら、いじめはかなり早い段階で終わるでしょう。彼らはいじめを容認し、いじめの被害者を次第に孤立させる一方、その態度は加害者から「連帯のサイン」と受け取られることがあります。その結果、内部的な合意があるかのような印象を与えてしまいます。加害者は「同僚は自分の行動を後押ししている」と考え、被害者は「同僚の全員が自分に敵対している」と思うようになります。残念ながら、多くの事例でそのような合意が実際に存在しています。

Moglichmacherとして考えられるのは、被害者と接触があるすべての関係者です。これには経営者、上司、同僚、事業所委員会のメンバー、派遣労働者、社内にいる他会社の労働者(食堂のスタッフ、清掃員など)、被害者のプライベートな関係者(友人、近所の住人、家族など)が含まれます。

この場合において非常に重要な存在は上司です。上司はいじめが発生すると、指導力の欠如を非難されるため、ある程度、共同の責任を負っています。本来なら自身の指導的な地位を利用して、話し合いや議論の場を設け、紛争当事者間の距離を離すことも可能です。しかし、上司がこれをせずに見て見ぬ振りをすると、結果としていじめが蔓延することになります。

加害者への制裁

加害者への法的制裁は非現実的です。理論的には有効ですが、現実をみると、法的制裁はほとんどありません。ドイツではAngst Mobber(アングストモバー)という、不安感によりいじめを行う者が存在します。加害者は、被害者と同じように健康上の問題を抱えており、ストレスを感じています。そのため、加害者は、他の人より先に同僚をいじめ、そうすることによって自分の雇用を守ろうと考えます。

国の政策および司法制度

法令、国の政策や司法制度をみると、職場のいじめに関する特別の法律がないのがドイツの現状です。すなわち、現在ある何らかの法律を利用するしかありません。そこで、解決策を判例の中から探すことになります。現在、刑法典第23八条でストーキングは犯罪行為とされており、これを適用することができます。この法令が制定されたのは職場のいじめのためではなく、あくまでもストーキングの問題に対処するためです。

国の政策をみると、職場のいじめの問題は無視され、国にとっていじめは存在していないように思われます。2013年に小政党の海賊党が提出した新しい法案がありますが、これはおそらく軽視されるでしょう。

司法制度においては、いじめ問題はあまり重要ではなく、周辺的な問題と認識されています。ドイツの判例データベースでは、約100万件の判決を確認できますが、モビングというキーワードで検索すると、約1000件しかヒットしません。すなわちドイツの司法制度においては、いじめの判例が0.1%以下しかないということです。

次の問題は、成功した訴訟手段がほとんどないことです。判事でさえ、裁判所ではモビングという言葉を使うなといっています。判事もいじめがどういう問題か理解しておらず、どうすべきかわからないからです。ほとんどの案件において、良い解決策をもたらすためには裁判所には行かず、裁判外の何らかの紛争解決策を利用します。

こうしたなか、2012年7月26日に重要な新しい法律が施行されました。それは、調停その他の裁判外での紛争解決方法を促進するための法律「メディエーション法」(Mediationsgesetz)です。非常に新しい法律ですので、この法律が有効に活用されていくのかどうかみていく必要があります。この法律をツールとしてモビングの良い解決策が提供できるようになるかもしれません。

連邦労働裁判所は2007年10月25日、一般平等取扱法第3条第3項に定めるハラスメントの定義について、同法第1条に掲げられた「人種、民族、性別、宗教・世界観、障害、年齢または性的指向を理由とする不利益取扱い」を超えて、あらゆる差別を対象とすることができるという重要な判例を示しました。

労使の取り組みと今後の課題

職場のいじめ問題においてもっとも重要なことは、企業において介入と防止策を講じることです。すなわち、事業所委員会と使用者との間の事業所協定が必要です。1つの好事例として、フォード自動車会社の例があげられます。同社がなぜ非常にうまく経営できているかというと、事業所委員会と経営側に緊密な連携があるからです。また、職場において安全衛生が非常に重要だと考えられています。

最後に、私はいずれ欧州議会がモビングに関する何らかの指令や方向づけを出すことに期待しています。加盟国、特にドイツに対して何らかの示唆を与え、欧州法が国内法に取り入れられていくことが望ましいと考えています。そうすればドイツは、より多くの解決方法を入手し、この問題に対決していくことができます。



各国報告3 スウェーデンにおける職場のいじめ・嫌がらせ
—いじめに立ち向かう結束 
第65回労働政策フォーラム

欧州諸国における職場のいじめ・嫌がらせの現状と取り組み
(2013年2月28日)


マルガレータ・ストランドマーク  カールスタッド大学教授

写真:マルガレータ・ストランドマーク氏

スウェーデンにおける職場のいじめの状況

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20130228/houkoku/03_houkoku3.html

スウェーデンは福祉国家であり、非常に近代的な住居と医療制度があります。男女が平等な社会で、より健全なライフスタイルを推進する傾向があります。

しかし、その一方で、福祉国家であるがゆえの別の側面も存在しています。近年は精神疾患が増加しています。また、病気休暇の国の費用負担をみると、精神疾患の費用がもっとも高い状況です。スウェーデンは非常に住みやすい国ですが、それでもやはり職場のいじめは存在しています。研究結果によると、いじめの発生率は、過去20年間では3.5%から11%の間となっています。

病院と自治体の労働者に対して行ったヒアリングから、次の事実が明らかになりました。過去6カ月にいじめを1週間に1回受けている人の割合は18.5%となっています。1週間に2回は6.8%です。4%はセルフラベリング(自己判断)により、いじめを受けたと報告しています。22%はいじめを目撃したと報告しています。また、38%の人がこれまでに、たとえば若いときに職場のいじめを受けたことがあると回答しています。全体の8.5%は職務関連のいじめを受けたことがあり、2.3%は深刻ないじめにさらされたことがあると答えています。

また、スウェーデン雇用環境局の統計では、医療・福祉の従事者、ホテル・レストランの従業員、清掃関係者などがいじめ、嫌がらせを受けるリスクが高いという結果が出ています。

図表1 職場のいじめの健康上の影響

図表1 グラフ クリックで拡大表示

(Hallberg & Strandmark 2006)

図表1 拡大表示

職場のいじめの健康への影響

職場のいじめは健康に非常に深刻な影響を及ぼします。図表1は職場のいじめが健康に及ぼす影響を示しています。上部は健康が悪化する過程、下部は健康が回復する過程です。中央の部分は、心の傷跡、トラウマを表しています。

職場のいじめを受けた被害者の中には、非常に深刻な心理的な傷を負い、それが一生残る非常に大きな出来事であったと回答する人もいます。

回復の過程では、いじめを受けたことに対する精神的適応、苦情の申し立て、最終的には救済の獲得という形になります。しかし、いじめを受ける期間が長くなればなるほど、状況を変える可能性が限定的となります。それが、図表の中の「限られた選択肢」です。たとえば、職場を変えることが困難になっていきます。もちろん普通の生活に戻ることは可能です。しかし、その前提として、ずっといじめに耐えながら、その中で適応していかなければならず、このプロセスは往々にして非常に苦痛を伴います。

最終的に被害者は、何らかの救済、例えば金銭的な賠償や職務の確認を求めます。しかし、それが叶ったとしても、心の傷が完全に癒えることはありません。一生の心の傷跡、トラウマとして残ります。

職場のいじめへの対応

スウェーデンでは、いじめの問題が単純化され、メディアで表面的に扱われることがあります。それでもメディアはいじめの問題を時々取り上げています。しかし、責任者は、いじめの問題に対して見て見ぬふりをし、隠ぺいしようとする傾向があります。その背景には恥ずかしいと思う気持ちや職場で悪評が立つことへの恐れがあるのかもしれません。

予防的な取り組みに関しては、いじめに特化したものは存在しません。さまざまな就労環境に関する教育やポリシーが実施されていますが、こうした計画やポリシーは存在しているだけで、実際に企業の最前線で適用・実用化されていないのが現状です。企業のトップは、こうした危機が現実のものにならないと、深刻に取り扱わない傾向があります。

いじめの過程

図表2 いじめの過程

図表2 グラフ クリックで拡大表示

(Strandmark & Hallberg 2007)

図表2 拡大表示

いじめの過程は、中傷、欺瞞、侮辱、不公平または特別扱いにより、進行します(図表2)。その目的は、最終的には職場からいじめを受けた人を排除することにあります。このようなことは他の形で持続的に発生し、いじめを受けた人が排除された後には、また他の人がこの問題に巻き込まれます。ただ、いじめを受けた人は裏切りや嫌がらせを受け続けるだけでなく、時には周りの人のサポートにより、一時的に心理的緊張が和らぐこともあります。しかし、このサポートでは、継続するいじめの過程を防ぐことはできません。

国の対策

国レベルの法規制について、私は現状では不十分だと感じています。規制は3つ存在しています。1つ目がスウェーデン雇用環境法です。この法律は物理的な点を強調していますが、心理的な要因も取り上げています。2つ目が雇用環境規則(AFS1993:17)です。スウェーデンは、この規則により、おそらく西欧諸国で最初に法的規制を導入し、職場における虐待的な差別行為を禁止しました。この規則は1993年に制定されましたが、そろそろ補完する時期に来ていると思います。3つ目が差別禁止法(SFS2008:567)で、2008年に制定されています。

スウェーデン文化といじめの関係

スウェーデン文化の長所としては、交渉と平等を重んじる長きに渡る伝統が、労働組合と使用者の間にある点です。一方、短所としては、われわれは往々にしてその問題が存在していないふりをしがちであるという点です。これが、いじめがなくならない理由の一つです。また、もう一つの短所として、スウェーデン語ではJantelagen(ヤンテラーゲン)といいますが、「自分が他人より優れていると思うな」、つまり出るくいは打たれる、他の人よりも突出してはいけないという考え方があります。

いじめを防ぐために

いじめの問題に対して何をすべきかについては、まずいじめをきちんと認識することが重要です。次に、問題解決のために話し合いを行うことです。そして最後に、自分たちの態度を改め、他の人と違った方法で職場を改善しようとする人、出るくいを称賛する文化に変えていくことが大切です。そのために、トップダウン(国の対策)、ボトムアップ(労使の対策)の両方からこの問題に取り組む必要があります。

まずトップダウンのアプローチですが、いじめに関する法制度は補完すべき時期に来ています。予防措置を講じて、いじめの根絶を図るよう、使用者に対してより大きな責任を課すべきです。学校の生徒に対する差別を禁じる法案について、現在こうした意図を盛り込んだものが検討されています。名称も「差別によるいじめ」という文言が用いられています。

一方、ボトムアップのアプローチですが、これによって同僚の責任を明確にしていく必要があります。責任があるのは使用者だけではなく、同僚にもやはり責任があるのです。


各国報告2:フランス法におけるモラルハラスメント:
第65回労働政策フォーラム

欧州諸国における職場のいじめ・嫌がらせの現状と取り組み
(2013年2月28日)


ロイック・ルルージュ  ボルドー第四大学比較労働法・社会保障研究所研究員

写真:ロイック・ルルージュ氏

職場のモラルハラスメント

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20130228/houkoku/02_houkoku2.html

フランスでは、職場のいじめについては「モラルハラスメント」という言葉を使っています。フランスはEU加盟国ですが、そのEUでは1989年に出された、労働安全衛生に関わる枠組み指令というものがあります。そして、フランスでも同年に、この指令に定められている一般的な予防義務に基づいて、安全衛生の原則を国内法に取り入れました。

欧州司法裁判所は、2001年にEUとイタリアの間で争われた事件の判決の中で、「使用者はあらゆるリスクを予防しなければならない」と述べました。この判決は、直接的には、イタリアが1989年の枠組み指令を遵守していないと判断した判決ですが、その中で、使用者が予防しなければならないあらゆるリスクとは、身体的・物理的リスク、精神的リスクといったすべてのリスクを含む、としたのです。こうして、使用者は一般的な予防義務を達成しなければならないとされていますが、この点について、フランスでは厳格責任の原則が定められています。

フランスでは、1998年がモラルハラスメントについて非常に重要な年となりました。作家のマリー=フランス・イルゴイエンヌが『モラルハラスメント』(邦訳本は高野優[訳]『モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない』紀伊國屋書店 、1999年)という本を出版したためです。これをきっかけに、それまで労働者が表立って口にすることができなかった、いじめ問題の議論に火がつきました。もちろん、1998年以前もフランスにはモラルハラスメントがありましたし、どの職場もその問題に直面していました。しかし、1998年にそれが公然のものとなったのです。

これをきっかけに、1999年と2000年に2つの法案が出されました。一つは下院、もう一つは上院においてです。また、政府の諮問機関である経済社会評議会において、2001年にモラルハラスメントに関する報告書が出されました。さらに、メンタルヘルスの概念をフランスの労働法に導入すべきか否かという論議が巻き起こりました。この議論により、メンタルヘルスの概念の重要性が、一躍注目を浴びることとなりました。

2000年以前から労働安全衛生法はありましたが、それはあくまで身体的なリスク、すなわち労働安全衛生政策を通じて、労働者の物理的安全あるいは身体的な健康を確保するために定められていました。しかし、2002年に成立した労使関係現代化法の中で、モラルハラスメントが法律に導入され、使用者は同時にメンタルヘルスの問題にも対応する必要が生じました。

労使関係現代化法におけるモラルハラスメント

フランスでは、労働法典、刑法典及び公務員規程にモラルハラスメントの定義が定められています。これらの法律の定義は同じですが、手順、手続きなどがそれぞれに違っています。労働法典における定義は、「いかなる労働者も、その権利及び尊厳を侵害し、身体的もしくは精神的な健康を害し、または職業キャリアの将来性を損なうおそれのあるような労働条件の悪化を目的とする、あるいはそのような効果を及ぼすような反復的行為を受けてはならない」となっています。なお、最近は労働災害の補償に関しても、モラルハラスメントの影響が出てきています。

モラルハラスメントに対応するためにはツールが必要です。使用者には一般的予防義務があり、労働者の安全を確保し、身体的及び精神的健康を守るための措置を講じなければなりませんが、そこには、モラルハラスメント対策の措置も含まれます。つまり使用者は、労働者の安全衛生確保のための包括的な予防計画を作成し、その中でモラルハラスメント防止策を講じなければなりません。たとえば、禁止されるモラルハラスメント行為を定め、それを行った場合は制裁の対象となることを職場において(たとえば就業規則などによって)明示的に示す必要があります。

また、最近は安全衛生委員会が普及し、事業所において労働者の健康を保護する役割を担っています。労働医(フランスの産業医)の役割も重要です。労働医は、精神衛生上特別なケアを必要とする労働者がいた場合に、個別的に必要な措置を使用者に提案できます。事業所の従業員から選挙によって選ばれる代表者である従業員代表委員の役割も重要です。フランスの企業は過半数が従業員五0人未満の中小企業ですが、こうした職場には安全衛生委員会がなく、その代わりに従業員代表委員が重要な役割を果たしています。

従業員代表委員は、内部告発者として行動する権利があります。仕事のためとは思われないような人権を侵害する行為、あるいは健康を侵害する行為が職場で起こったときには、使用者にそれを伝えなければなりません。使用者は通報を受けた場合、それを調査し、問題を解決するために必要な措置をとらなければなりません。

モラルハラスメントに関する裁判で重要な役割を果たしているルールの一つに、雇用契約の誠実履行義務という考え方があります。この考え方に基づき、使用者は雇用契約を結んだ場合には、その労働者の健康が損なわれることがないよう対策を講じなければなりません。モラルハラスメントに関しては、この雇用契約の誠実履行義務という考え方に基づき、裁判所が紛争の解決に関わる可能性がさらに強化されています。

証明責任についていいますと、モラルハラスメントを受けたと主張する労働者は、モラルハラスメントが起きたと推定するに値する事実を証明しなければなりません。それに対して被告は、その問題となった行為がハラスメントでなかったことを証明する義務があります。すなわち、ハラスメントとは関係ない、客観的な要素によって正当化され得る行為であったことを証明しなければならないのです。このような流れで原告(労働者)・被告(使用者)の主張を聞いた後に、裁判所が必要に応じて調査を命じ、判決を出すことになります。

私は、モラルハラスメントを告発する労働者を守るための措置が重要だと考えています。モラルハラスメントを訴えたこと、あるいはモラルハラスメントを目撃してそれを訴えたことを理由に、解雇や制裁を科すことは禁止されています。モラルハラスメントを受けている労働者を、こうした保護ルールを無視して解雇した場合、その解雇は無効であると労働法典に定められています。

調停手続(Mediation)も、労働法典に規定されており、モラルハラスメントの被害者と行為者の双方が申請できます。しかし、残念ながらあまり活用されておらず、効果を上げていないのが実情です。私はもっと調停手続を推進すべきであると思っています。

モラルハラスメントを防止する使用者の責任

破毀院(司法訴訟に関するフランスの最高裁判所)は2002年、使用者の責任の範囲について定める画期的な判例を出しました。それは、たとえ予防策を取っており、加害者を罰したとしても、それによって直ちに使用者が責任を免れるわけではないというものです。使用者が原因をつくったわけではなく、同僚の従業員が加害者であったとしても、その加害者の行為に対して、使用者が責任を負うという判決です。この判決は、使用者が職場における安全衛生確保について極めて厳格な義務を負っていると解釈しました。

また、2006年のプロパラ事件において画期的な判決がありました。これは企業内労働者の安全衛生保護、特にモラルハラスメントに関する安全確保義務において、使用者が負う責任についての破毀院の判決です。この判決は、使用者に過失がない場合でも安全確保義務は免除されるわけではないと述べました。メンタルヘルスに身体的な労働災害と同じだけの重みが与えられたわけです。モラルハラスメントの発生に気づいていながらこれに対応する措置をとらなかった場合、使用者側に雇用契約の義務不履行の責任、損害賠償責任が発生します。

破毀院は2009年11月の判決で、モラルハラスメントの定義を拡大しました。この判決は、行為者の側に悪意がなくとも、モラルハラスメントになり得ることを確認しました。繰り返し何度も行われた一定のマネジメント手法が、モラルハラスメントになり得ることも示しました。

しかし、法的な定義だけでは、現実の問題に対応できません。そこで、特定のタイプの問題のある労務管理の方法に、歯止めをかけることも必要ではないかと考えられ始めています。現在では、管理職によるハラスメントという概念が認められるようになっています。すなわち、特定の問題のある労務管理手法、マネジメント手法が、ある従業員に対して繰り返し行われた場合に、それがハラスメントに当たることもあり得るということです。

2010年2月の判決も、やはり使用者の一般的な予防義務を重視しました。モラルハラスメントやセクシュアルハラスメントを含む身体的・精神的虐待があった場合、たとえ使用者がそれを防止する対策を取っていたとしても、被害が起こってしまったら、使用者は責任を負わなければならないことがあるという判決でした。

精神的健康リスクに対して、使用者はそのリスクに関わるあらゆる行為を予防・回避する対策を講じなければなりません。そこでは、形式的に一般的な対策をとればいいというのではなく、実際にリスクを防ぐための効果的な対策を実施することが重要です。使用者にそのような実際上の効果的な対策をとるインセンティブを与えることが、この判決の狙いです。

モラルハラスメントに対する罰則

2012年6月からモラルハラスメントの被害者(労働者)は2つの形で賠償を受けることができるようになりました。一つ目は、自分が受けた加害行為そのものに対する賠償です。2つ目は、使用者の予防義務違反に対する賠償です。この2つの損害は、被害者(労働者)が証明しなければなりません。これに関しては、労働法典だけでなく、刑法典にも規定が設けられています。両者とも法的なモラルハラスメントの定義は同じです。有罪の場合、2年間の実刑判決か、最大で三万ユーロの罰金が科されます。

フランス・テレコムで自殺が相次ぎ、前代表のほか、2人の幹部が取り調べを受けました。フランスの刑事手続において公判前に犯罪の存在及び被疑者に関する証拠が十分揃っているか否かを判断する役割を負っている予審判事は、この事案において従業員が自殺するほどひどいモラルハラスメントを受けていたと認定しました。そして、前代表と幹部は主犯、あるいは共犯者として、犯罪に関与したと判断されました。この事件を通じて、モラルハラスメントの加害者を、刑法犯として訴追することが可能であることが明らかとなりました。

いずれにしても、こうした場合には労働法の適用を監督する行政官である労働監督官の協力が不可欠です。労働監督官の報告があったからこそ、フランス・テレコム事件の実態が明らかになりました。



各国報告1:イギリスにおける職場のいじめ:
第65回労働政策フォーラム

欧州諸国における職場のいじめ・嫌がらせの現状と取り組み
(2013年2月28日)


ヘルゲ・ホーエル  マンチェスター大学ビジネススクール教授

写真:ヘルゲ・ホーエル氏

職場のいじめの特徴

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20130228/houkoku/01_houkoku1.html

職場のいじめの状況に関して、どのような現象があるか、いじめとは何かについて説明します。定義ではなく、主な現象の特性について申し上げます。

職場のいじめは否定的(ネガティブ)で不快な行為であり、それを受けた者に心理的なダメージをもたらす可能性があります。いじめには直接的なものと間接的なものがあります。直接的なものは相手に恥をかかせることなどで、間接的なものは噂したり、仕事について中傷することなどです。

いじめられる原因は、仕事を時間どおりやらないことや個人的な攻撃などです。たとえば、習慣に関する批判や人格、出身地、親類関係などによって無視されることがあります。

職場のいじめの基本的な特徴は、反復され、かつ頻度が高いということです。このような行動が何度も何度も繰り返されることにより、被害者は耐えられなくなります。そして、いじめは繰り返されるため、被害者は対処を行うことが困難となります。いじめは長期にわたり、3カ月、1年、あるいは2年も継続することがあります。

いじめの話をする上で大事なポイントは、権力の不均衡についてです。通常であれば権力の不均衡は、組織階層の上層部の人間がより大きな力を持つことにあります。しかし、たとえば、知識の差、経験の差、あるいは縁故の有無が、ある種の対立関係における大きな要因となります。

イギリスにおける職場のいじめの現状

イギリスで職場のいじめに対する関心が高まったのは、1990年代初めです。ジャーナリスト兼アナウンサーのアンドレア・アダムス氏が、「職場のいじめ」(workplace bullying)という言葉を造り出しました。彼女はラジオ番組を通じて、イギリスの職場におけるいじめの問題と、その重要性について調査しました。この番組と、彼女が後に出版した書籍『職場のいじめ―どのように取り組み克服するべきか』により、イギリスにおいて多くの人がこの問題を知ることとなりました。

いくつかの調査・研究によると、イギリスでは10~20%が職場でいじめを経験しています。いじめのパターンをみると、いじめを受ける割合は男女同程度のようです。少数民族、障がい者、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、こういった人たちの経験率が比較的高くなっています。また、民間部分よりも公共部分で広く蔓延しています。

イギリスが他の国と少し違うのは、縦の関係以外のいじめも蔓延していることです。一般的に、いじめは縦の関係で発生します。すなわち、上司によるいじめです。しかし、同僚間のいじめもあります。それから、医療関係の施設や小売店、ホテル、学校では、顧客・消費者・学生等からのいじめも発生しています。経営者や幹部層も、さらに上の者からいじめを受けています。

職場のいじめの影響は深刻で、心理的にも身体的にも影響を及ぼし、仕事に対する満足度を損なわせます。その被害者にとっては、非常に深刻な影響があります。しかし、イギリスにおいては、組織的な影響に議論の焦点があります。いじめが起きると離職者が出て、生産性も低下します。いじめは直接の当事者だけでなく、周囲の傍観者にも影響を与えます。

職場のいじめの問題が裁判所に持ち込まれると、時として判事は莫大な支払いを使用者に命じます。訴訟も含め、いじめは企業に対してさまざまなコストを生じさせます。そのため、使用者はこの問題を認識し、深刻にとらえなければなりません。

職場のいじめが発生する理由

職場のいじめが発生する理由の一つに、職場環境の質があります。競争の厳しいグローバル化した世界では、労働者はさまざまなことを要求されます。人々は期日を守れない、目標を達成できないと感じることがあります。自分の役割に葛藤や曖昧さを感じることもあるかもしれません。また、あまりにも権威主義的、あるいは予測不能なリーダーシップが生じて、いじめが発生することもあります。

あるいは、ストレスにさらされた幹部や経営者自身が、自分たちのフラストレーションを部下にぶつけることがあるかもしれません。また、人々がいじめを仕事の一環として、受容してしまうこともあります。普通であれば到底、受け入れられないことを、受け入れてしまうのです。たとえば、イギリスなどでは、厨房におけるシェフによるいじめが発生しています。そうすると、その職業に属している人たちは、これを役割モデルとしてとらえ、それらの行為を真似するようになります。看護師、あるいは消防署でも同じような状況がみられます。

職場のいじめへの対処法

イギリスでは長年、労働組合を中心に、職場のいじめに特化した法律「職場の尊厳法」(Dignity at Work Bill)の制定が提唱されていますが、未だ達成されていません。しかし、現状でも被害者を守る方法はあります。たとえば、1974年労働安全衛生法により、使用者は従業員に対して健康、安全、福利厚生を確保する義務があります。また、反差別法制である2010年平等法(Equality Act 2010)によって、マイノリティグループとして保護される人種、宗教、年齢、障がい等に関する差別的ないじめに対応しています。職場のいじめに限定されないハラスメントに関する法律として、1997年ハラスメントからの保護法(Protection from Harassment Act 1997)もあり、賠償金の上限が現在100万ポンド(日本円で約1.4億円)とされています。

では、使用者はどのように対処すべきでしょうか。以前は、これはあくまで人事管理の一手段であって、いじめではないと考えられていました。しかし、現在は、使用者の理解も進んできました。使用者の権限としての確固たる態度といじめは異なるものであり、それを区別すべきであるという理解が進んだのです。

一つの有効な行動は、使用者がいじめに関するポリシーを職場に導入することです。このポリシーにより、組織として職場のいじめを許容しないことを示します。そして、このポリシーに違反した者に対しては、制裁を科します。

また、インフォーマルな問題解決手段として、企業内で調停(mediation)を行ったり、人々が自主的に集まって対立を解決しようとすることがあります。あるいはフォーマルな苦情処理手続を選択することもあります。調停の有効性に関する調査によると、イギリスやその他諸国において、調停が効果的なのは、対立がそれほどひどくないケースに限られることが明らかとなっています。あまりにも対立がひどいケースでは、行っても意味がありません。

労働組合の役割

イギリスでは職場のいじめの問題に労働組合が当初から介入し、法制化を推進するとともに、企業別の支部レベルでも活発に活動しています。イギリスの労働組合は、1980年~90年代前半にかけてかなり衰退しましたが、職場のいじめの問題に関しては、重要なプラットフォームと位置づけられています。職場のいじめは組合員にとって深刻な問題なので、労働組合は職場の組合員のために状況を改善する意思を持っています。

イギリスでは、政府の支援で、2004年から使用者と労働組合が共同で問題に対処するパートナーシップ・アプローチ(Dignity at Work Partnership)が始まりました。英国航空やブリティッシュ・テレコムのような大手企業とUNITEなどの労働組合がソーシャル・パートナーシップを確立しています。

このプロジェクトの委託調査でわかったことは、成功している組織もあれば、失敗している組織もあるということ、そして、成功している組織の特徴は、上層部の確固たるコミットメントと従業員の賛同をとりつけ、そこで何が起きているのかが正しく理解されていることです。

しかし、この労使共同プロジェクトは、130万ポンドという投資にも関わらず、いじめ被害者にとっての救済策を提供しておらず、内容的に労働者側の意向を汲んだものとはなっていません。そのため、経営者側の意向に偏っているという批判もあります。

今後の課題

20年間の調査研究を通じて、イギリスでも職場のいじめの問題はある程度認知されるようになりました。この問題に対応するための法律の整備が必要だと私は認識しています。ただ、それ以上に重要なのは、より多くの人がこの問題を認識することです。今日のイギリスには十分な措置や対策があると思います。それらを成功させるためには、使用者と労働者が前向きにこの問題に取り組んでいく必要があります。


各国報告5 日本における職場のいじめ・嫌がらせ、
パワーハラスメントの現状と取り組み
第65回労働政策フォーラム

欧州諸国における職場のいじめ・嫌がらせの現状と取り組み
(2013年2月28日)


内藤 忍  JILPT研究員

写真:内藤 忍JILPT研究員

職場のいじめの経験率・当事者

https://www.jil.go.jp/event/ro_forum/20130228/houkoku/05_houkoku5.html

厚生労働省は2012年12月、「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」の結果を発表しました。それによると、日本において、過去3年間にパワハラを経験した人の割合は25.3%で、4人に1人となっています(図1)。定義や期間によって異なるので単純比較はできませんが(とくに、欧州では、過去6カ月間もしくは1年の経験率を聞いていることが多い)、これまで4カ国の報告にあった割合と比べて随分高い印象をお持ちになるのではないかと思います。

職場のいじめの被害者を男女別にみると、厚労省の調査では男性がほんの少し多く、自治労の調査では女性が若干多くなっています(図2)。JILPTが労働局に寄せられたいじめあっせん事案における申請人の性別を調べたところ、女性の割合は2008年が約55%、2011年が約60%という結果が出ています。このように日本の職場のいじめ被害者の男女別割合についてはまだどちらが多いとは断定的にはいえない状況です。

どういう人が加害者(行為者)で、どういう人が被害者になっているかを厚労省調査でみると、パワハラ相談の当事者関係は、企業調査でも従業員調査でも「上司から部下へ」が77%ともっとも多くなっています(図3)。

実際のパワハラ行為については、企業調査と従業員調査の双方で、「精神的な攻撃」、すなわち暴言などの言語による攻撃が一番多い結果となっています(図4)。

職場のいじめの背景・原因

パワハラ発生の背景・原因については、グローバル化による競争の激化、職場の人間関係の希薄化など、経営環境や職場環境の変化が大きいと言われています。また、年功序列意識の希薄化や価値観の多様化など、従業員側の変化も指摘されています。JILPTの労使ヒアリング調査においても、パワハラの背景・原因として、人員削減・人材不足による過重労働とストレス、職場のコミュニケーション不足、会社からの業績向上圧力、成果主義、管理職の多忙・余裕のなさ、就労形態の多様化などがハラスメントの担当者から指摘されました。

厚労省調査からは、パワハラが発生する職場に共通する特徴がわかります。企業調査で、パワハラ相談があった職場に当てはまる特徴を聞いたところ、一番多かったのは「上司と部下のコミュニケーションが少ない」で51.1%でした(図5)。次いで、「正社員や正社員以外など、さまざまな立場の従業員が一緒に働いている」が21.9%、「残業が多い/休みが取り難い」が19.9%となっています。

従業員調査では、現在の職場でのパワハラ経験者と未経験者に、職場の特徴を聞いています。両者の回答の開きが大きいものが、パワハラが起きやすい職場の特徴ということになります。一番開きが大きかった職場の特徴は「残業が多い/休みが取り難い」で、このほか「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」、「上司と部下のコミュニケーションが少ない」などが上位を占めています(図6)。

やはりコミュニケーションがこの問題の一つの鍵になると思います。厚労省調査では、職場のコミュニケーションとパワハラ発生の関係を取り上げています。現在の職場で「悩み、不満、問題と感じたことを会社に伝えやすいか」という問いに対する回答は、現在の職場でいじめを経験した人と経験していない人では、伝えやすいと考える度合いがまったく違っています(図7)。パワハラを経験した人では、伝えにくいと考える割合が非常に高くなっています。「悩み、不満、問題と感じたことを上司に伝えやすいか」に対する回答もまったく同じ結果となっています。また、その職場で「同僚同士のコミュニケーションが円滑であるか」という問いに対する回答も、パワハラを経験した人と経験していない人で差があり、パワハラを経験した人のほうが、円滑でないとする割合が高くなっています(図8)。

職場のいじめがもたらす影響

海外では、職場のいじめがもたらす影響について多くの調査が実施されていますが、日本においてはまだいくつかの調査研究しかありません。そのいくつかの調査研究をご紹介します。まず、精神的健康における影響についてですが、自治体労働者約2000人を対象とした2009年の調査では、職場のいじめを受けているグループは、受けていないグループに比べて心理的ストレス反応リスクが4倍から5倍、心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状の発症リスクが8倍も高いという研究結果が出ています(1)。

兵庫県こころのケアセンターの2011年の調査では、いじめ経験と心身の健康との関連性について調べています(2)。いじめを受けた人のグループは、受けていない人のグループに比べ、健康関連QOLが低下していました。職場のいじめが労働者の心身の健康に悪影響を及ぼす可能性を示唆しています。この調査では、職場のいじめの経験と労働遂行能力の関係についても調査しており、いじめを受けた人のグループは、受けていない人のグループに比べ、主観的労働遂行能力が低下していました。職場のいじめを受けると、労働生産性が下がる可能性が示唆されています。

職場のいじめをめぐる国の動き

職場のいじめが社会問題化する事態を受け、国も昨年から職場のいじめに関する対策の検討を開始しています。当方も参加した厚労省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」は、2012年1月30日に発表した「報告」において、職場からなくすべき行為について次のように整理し、「職場のパワーハラスメント」と呼ぶことを提案しました。すなわち、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」としています。職場内の優位性については、上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司といった職場におけるさまざまな優位性を背景に行われるものを含むとしています。

ワーキング・グループは、裁判例をもとに「職場のパワーハラスメント」の6つの行為類型として、(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)、(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)、(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)、(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)、(5)過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)、(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)をあげました。ただし、これらの類型は、「職場のパワーハラスメント」のすべてを網羅するものではないことに留意が必要です。

職場のいじめに関する労使の取り組み

日本の労使の取り組み実施状況についても、厚労省の企業調査からある程度わかりました(図9)。全体で見ると、45.4%の企業が現在何らかの取り組みを行っています。しかし、企業規模別にみると、大企業では既に取り組んでいる企業が76.3%にのぼる一方、従業員99人以下の企業では18.2%と2割以下しか取り組んでいない状況です。

労働組合の取り組み状況については、大規模な調査がなく、よくわかっていませんが、JILPTが2011年5月に29の労働組合(産業別労働組合と大企業の企業別労働組合)から回答を得たアンケートでは、取り組みを実施している組合が31.3%(9組合)、実施していない組合が65.5%(19組合)となっており、約3分の2の労働組合がこの問題に取り組んでいないという結果でした(3)。

日本企業においては、相談窓口の設置・運営、アンケート調査による実態把握、啓発・研究・教育の実施などの取り組みがもっとも多くみられます。さらに先進的な企業ではコミュニケーション促進策の実施や職場の風通し改善、ハラスメント問題に関する労使の情報共有・協議、ハラスメントに関する労使協定の締結などの例がみられます。また相談窓口を労使共同で設置している企業もあります。

厚労省調査では、企業に対し、既に実施している取り組みのうち効果があると実感できたものを聞いています。もっとも割合が高いのは、「管理職を対象にパワハラについての講演や研修会を実施した」で77.3%となっています(図10)。次いで、「一般社員を対象にパワハラについての講演や研修会を実施した」(70.6%)、「アンケート等で、社内の実態把握を行った」(62.1%)の順となっています。

問題は、パワハラを受けた人のその後の対応です。なんと、パワハラ経験者の46.7%の人が「何もしなかった」と回答しています。つまり、約半数の人はパワハラを受けた後も、どこかに相談することもなく、会社を休むこともなく、退職もせずに、我慢したということです。相談した場合の相談先としては、「社内の同僚」(14.6%)、「社内の上司」(13.6%)が多いですが、「人事部」(3.9%)、「社内の相談窓口」(1.8%)、「会社が設置している相談窓口」(1.4%)は、非常に低い割合となっています(図11)。相談窓口を設置するだけでなく、その窓口が本当に使える、労働者が相談できる窓口となっていることが大切です。

図1 日本における職場のいじめの実態 過去3年間にパワハラを受けた・見た・した経験

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厚生労働省「職場のパワーハラスメントに関する実態調査(従業員調査)」(平成24年12月12日)

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図2 日本における職場のいじめの実態 パワハラを受けた経験(男女別割合)

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図3 日本における職場のいじめの実態 パワハラの当事者関係

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厚生労働省「職場のパワーハラスメントに関する実態調査(従業員調査)」(平成24年12月12日)

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図4 日本における職場のいじめの実態 実際のパワハラの行為

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厚生労働省「職場のパワーハラスメントに関する実態調査(従業員調査)」(平成24年12月12日)

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図5 日本における職場のいじめの実態 パワハラ相談がある職場に共通する特徴

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図6 日本における職場のいじめの実態 パワハラを経験する職場に共通する特徴

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図7 日本における職場のいじめの実態 職場のコミュニケーションとパワハラ発生の関係

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厚生労働省「職場のパワーハラスメントに関する実態調査(従業員調査)」(平成24年12月12日)

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図8 日本における職場のいじめの実態 職場のコミュニケーションとパワハラ発生の関係

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厚生労働省「職場のパワーハラスメントに関する実態調査(従業員調査)」(平成24年12月12日)

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図9 日本の労使の取組み 労使の取組みの実施状況

厚生労働省「職場のパワーハラスメントに関する実態調査(従業員調査)」(平成24年12月12日)

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図10 日本の労使の取組み 企業が実施する取組みのうち、効果があると実感できたもの

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図11 日本の労使の取組み パワハラを受けた後の対応

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厚生労働省「職場のパワーハラスメントに関する実態調査(従業員調査)」(平成24年12月12日)

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  1. 津野香奈美ほか「労働者における職場のいじめの測定方法の開発とその実態、健康影響に関する調査研究」産業医学ジャーナルVol.34, No.3(2011年)79―86頁。
  2. 牧田潔ほか「職場のいじめ(パワーハラスメント)被害と健康関連QOL・主観的労働遂行能力との関連性」心的トラウマ研究(兵庫県こころのケアセンター研究年報)第8号(2012年)11―18頁。
  3. JILPT第29回ビジネス・レーバー・モニター特別調査(2011年5月9日~31日実施)。対象は、産別労組27組織、企業別労組38組織のモニター労組。登録65組織中、29組織(44.6%)の有効回答を集計した

三重の高1男子自殺はいじめと因果関係あり 第三者機関が報告書

三重の高1男子自殺はいじめと因果関係あり 第三者機関が報告書

https://www.chunichi.co.jp/s/article/2020030690225704.html

 三重県立高校で2018年8月、1年の男子生徒(16)が自殺した問題で、いじめの可能性を調査していた県教委の第三者機関(県いじめ対策審議会)が6日、報告書をまとめた。上級生や同級生から無料通信アプリLINE(ライン)で嫌がらせを受けるなど6件のいじめについて、自殺との因果関係があるとした。

 この日、会見した審議会会長の尾高健太郎弁護士によると、いじめは18年5月末から8月にかけてあり、同じ部活動の当時2年生の3人と同じクラスの生徒1人を加害者として特定。日常的にたたかれたり、グループラインで「おまえいらんわ」「カス」などと投稿されたりした。

 学校は男子生徒が亡くなる前の7月、全生徒に、いじめに関する定期アンケートを行ったが、いじめの兆候は確認できなかったという。一方、男子生徒は6月ごろ、教員に「先輩との人間関係に悩んでいる」と相談していたが、教員間で情報は共有されなかった。

 尾高弁護士は「学校の対応は不適切とまでは言えないが、非常に注意深く見ていれば、気付けた可能性はある」と指摘。再発防止に向け、教員同士の連携やインターネットの利用に関する指導の強化などを報告書で提言した。県教委は「大変重く受け止めている。提言を踏まえ、再発防止に取り組みたい」としている。

 審議会は弁護士や精神科医ら5人で構成。遺族の要望を受け、18年12月以降、在校生や教員への聞き取りなどを行っていた。

(中日新聞)

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