水道事業を民営化しやすくする改正水道法が、年内に施行される。安くて、安全で、おいしい水の確保は、命や生活にかかわる。水道の運営は、誰に任せるべきなのか。

 ■民営化で更新・耐震急げ 吉村洋文さん(大阪市長

 改正水道法の成立は歓迎です。水道事業の認可を自治体に残しつつ、民間に任せる範囲など制度設計は各自の判断でできるようになります。

 企業の経営が悪化した場合、水道料金が上がるのか。そんなことはありません。改正水道法では、自治体は企業をしっかり監視することになっています。海外では、水質の悪化や料金値上がりの事例がありますが、日本では起きないでしょう。

 改正水道法に反対する人たちには、このまま何もせず放置したらどうなるのか、と問いかけたい。反対する人には「『命の水』が外資に食べられる」といった抽象的な議論をする人が多いですよね。

 しかし全国的に水の需要は減っており、水道管は老朽化しています。何も対応をとらなければ、残された道は、水道料金の大幅な値上げしかありません。どう回避するつもりなのでしょうか。

 自治体は、積極的に将来の水道料金の値上げの可能性を公表しません。知らんぷりをしておいて、値上げの時に急に「仕方がありません」と言う。これは、将来の世代に水道料金の値上げという大きな問題を先送りしているだけです。無責任だと思います。

 大阪市は早速、運営を民間会社に任せる「コンセッション方式」をいかして、民間企業による老朽化した水道管の取り換えや耐震化に取り組みたいと思っています。

 コンセッション方式の導入に向け、これから議論を加速させていきます。来年2月ごろには議案を市議会に提出。可決されれば、2022年か23年には実現させたいと思っています。

 大阪市の水道事業が抱える最大の問題は、水道管の老朽化です。総延長は約5200キロありますが、17年度の時点で、46・5%が法定耐用年数の40年を超えています。さらに、主要な管の33%が耐震化されていません。昨年6月の大阪北部地震では、府内で最大21万3千人が断水などの影響を受けました。

 今のままでは、南海トラフ巨大地震のような大災害が起きたときに、水の供給体制が危なくなるという危機感を持っています。

 市水道局が、これまで通りのペースで水道管の取り換えを進めていくと、地震に弱い老朽管を解消するまでに25~26年かかる計算です。これをスピードアップするために、民間企業には15年間の運営権を設定します。総額3千億円規模の巨大事業です。

 企業には設計段階から任せる予定で、市の試算では5~10%ほどコスト削減できる見込みです。さらに地震に弱い老朽管の解消が約10年早まります。これを「大阪市モデル」として全国に打ち出していきたい。成功すれば、全国に波及するでしょう。

 (聞き手・吉川喬)

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 よしむらひろふみ 1975年生まれ。弁護士で元衆院議員。2015年市長選で初当選し、現在1期目。大阪維新の会政調会長

 ■持続する公共サービスに 岸本聡子さん(トランスナショナル研究所研究員)

 私は、水道の民営化は国民を不幸にすると思います。

 民営化するとコストが下がると言われますが、そんなことはありません。水道管などの設備更新の費用は、民営化すれば自治体の会計上の借金からは消えて見えなくなります。ですが、本質的に財務状況が良くなるわけではありません。費用は、最終的には水道料金を支払う住民が負担するのです。

 さらに、資金調達をする際の金利は公営より民営のほうが高くなります。長期で借り入れることになるため、両者の差額は膨大になるうえ、株主配当や役員報酬など別の費用もかかります。

 欧州を中心に、民営化後、料金が高騰したり水質が悪化したりなどの理由で再び公営に戻す自治体が増えています。私たちの調査では、2000~16年に少なくとも33カ国で267の水道事業が再公営化されたとわかりました。

 日本政府は、事業計画や料金設定を国や自治体が審査する許可制とするなど「しばり」を強くすることで、海外のような失敗は起こらないと説明しますが、それは難しいでしょう。

 水道ビジネスを手がける「水メジャー」と言われる多国籍企業は、多大な利益を得ています。日本も狙われている市場の一つです。コンセッション方式の場合、自治体と企業の契約書は数百ページにもおよびます。水メジャー側はノウハウを持つ弁護士らが契約を担い、百戦錬磨のプロ集団が巧妙に企業側に有利な契約を結ぼうとします。自治体の職員が自治体に有利な契約を結ぶことは不可能でしょう。

 日本の多くの水道事業が赤字になっていますが、民営化に頼らない解決策は無数にあると思います。特に小規模な水道では、水道管で遠くまで運ぶのではなく、山間部の泉や地下水などを水源にするという選択もあるでしょう。都市部と比べてコストも下がり、安全でおいしい水が供給できる可能性があります。

 そもそも水道は、水道料金だけで事業費を賄う独立採算制でなくてもいいと思います。大都市ではできても、小規模な所では困難です。東京と人口1万人の都市を同じレベルで語るのがおかしいのです。安全な水の使用は人権で、水道は社会基盤の一つです。地元で水源を保全し、多くの薬品を使わないなどコストを抑えるためにあらゆる努力をしても原価割れするならば国が財政支援すべきです。

 これから水道事業をどうするかは「自治の力」にかかっています。自治体や議会は、住民と開かれた議論をし、目先の財政負担軽減ではなく100年先を見据えた対応をしなければいけません。民営化の圧力をはねのけ、孫の世代も享受できる持続可能な公共サービスを目指すべきです。

 (聞き手・姫野直行)

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 きしもとさとこ 1974生まれ。公共サービスの再公営化を調査研究する。共著に「安易な民営化のつけはどこに」。研究所は在オランダ

 ■自然や文化、守り届けて 水野直樹さん(熊本市「ラジオ水守」)

 岐阜で生まれ育った私は22年前、仕事で熊本市に引っ越しました。うれしかったのは水道水のおいしさです。

 専門家によるおいしい水道水ランキングでは福井県大野市に次ぎ全国2位。小学生の息子はのどが渇けば水道からごくごく飲みますし、私も浄水器やペットボトルの水は使わなくなりました。

 熊本市の水道水は全国でも珍しい100%天然地下水です。阿蘇山周辺に降った雨水が、火山堆積(たいせき)物の土壌でゆっくり濾過(ろか)され、ミネラルと炭酸がバランス良く溶け込んでいます。初代熊本藩主・加藤清正が完成させた治水事業によって水田が開かれ、さらに地下水が育まれやすくなったという歴史もあります。市民の誇りは相当なもので、「蛇口をひねればミネラルウォーター」というキャッチコピーはみんなが知っています。

 しかしそれほど水に恵まれた熊本でも、地下水が減っています。都市化が進んでコンクリートが地面を塞ぎ、減反政策で水田も減ったため、水が地下にたまりづらくなったのです。日本人のライフスタイルの変化が、地下水システムの危機を招いているといえるでしょう。

 そこで熊本市では、十数年前から地下水を育む活動を始めました。転作田に水を張ったり、地中に雨を逃がす「雨水浸透ます」を家に取り付ける際の補助制度を設けたり。約190人が「水守(みずもり)」として登録され、水の大切さを広めています。市内の小学校では、主に4年生で水について学習します。そして5年生で学ぶのが、県南部でかつて工場排水により引き起こされた公害、水俣病です。

 熊本市を旅行したら、飲食店員やタクシー運転手に「水道水がおいしいの?」と聞いてみてください。きっと多くの人が語りだすでしょう。教育や水を守る活動で培われたものは大きいと思います。

 3年前の春、私たちは大きな地震を経験しました。水道管が損傷して断水し、地下水の湧き出る公園には長蛇の列ができました。「水がこんなに重いって初めて知った」。そこで聞いた中学生の言葉が忘れられません。水道の便利さを痛感するとともに、命をつなぐ水の貴重さを感じました。

 水道の役割は、水をポンプでくみ上げて人々のもとへ運ぶだけではありません。阿蘇山から田、土の中を水が巡り、人が使った後はきれいにして豊かな有明海へと返す――。熊本の水道はそんな循環の一端を担っているのです。

 私は行政であれ民間企業であれ、水道事業者には経営力だけでなくこの循環を守るという思いを持ってほしい。水とともに、それを育んできた自然や歴史、文化も私たちに届けてくれる人に任せたいと思います。

 (聞き手・藤田さつき)

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 みずのなおき 1972年生まれ。コミュニティーFMでまちづくりと防災の番組を担当。生涯学習支援事務所「スタディライフ熊本」理事。