中東のイスラエルが、新型コロナウイルスの侵入阻止に躍起になっている。中国などアジア5カ国・地域に続き、24日からは日本や韓国からの入国も禁止にした。他国では類を見ない厳しい対応で、国民の過剰反応を招いている面もある。果たして、対応はやり過ぎなのか。

 いま、イスラエルの街を歩いていると、新型コロナウイルスへの警戒が日増しに高まっていると感じる。「コロナ! コロナ!」と指さされたことは一度や二度ではない。すれ違いざまに、さっと口を覆われたこともある。アジア人への過剰反応を示すのは一部の人に過ぎないが、「パニック」に近い現象にみえる。

 実は、イスラエルではまだ市中感染はゼロだ。だからこそ、政府は水際対策に全力を注ぐ。中国に続き、タイ、香港、シンガポール、マカオに過去14日間に滞在した外国人の入国を禁止。24日朝から、日本と韓国も入国禁止の対象に加えた。

 ネタニヤフ首相は23日、新型コロナウイルス対策の閣議で「準備不足より、準備し過ぎる方がいい。他国よりも厳重な対応をとり続ける」と語った。

 突然決まった日韓からの入国禁止は混乱を呼んだ。

 24日、ベングリオン空港では帰国を急ぐ日本人客の姿があった。あるツアー団体は「日本人は乗せられない」と帰国便への搭乗を拒否され、4度も航空便を変更した末に出国。予定を切り上げて帰国したり、ホテル宿泊を断られたりするケースも出た。

 東京都から訪れた金本義也さん(49)は、ベツレヘムの教会でバスからの降車を断られ、観光できなかったという。「やり過ぎに感じるが、地元政府の立場になれば仕方ないとも思う」と複雑な心境を語った。

 商都テルアビブには、日本から多くの出張者も訪れる。慌てて帰国したり、逆に一時帰国中の駐在員がイスラエルに戻れなかったりするケースも出ている。

 韓国人はさらに混乱に見舞われた。8~15日にイスラエルに滞在した韓国人グループのうち、帰国後に9人に感染が発覚。「イスラエルにウイルスが持ちこまれたのでは」とパニックを引き起こしたからだ。

 滞在中の韓国人はすぐに帰国を求められた。23日には空港内の韓国人専用の「隔離スペース」に数百人の観光客が集められ、チャーター便などで24日までに多くが帰国した。

 感染した9人の韓国人旅行客に接触したイスラエル人に対し、政府は14日間の自宅隔離を指示。アジア諸国から帰国した人も隔離の対象で、総数は1千人近くに及ぶという。政府は隔離の徹底のため、警察の出動も辞さない姿勢。指示を破ると、最長で禁錮7年の罰もあり得るという。

 アジアの国々は危ない――。そうした政府の姿勢に影響され、アジア人差別につながるのではという懸念も広がっている。SNS上には誤った情報も錯綜(さくそう)し、保健省は24日、「保健省のサイトを装ったフェイクニュースが拡散している」と注意を呼びかけた。

 イスラエル政府の対応について、ヘブライ大のハガイ・レビン教授(疫学)は「イスラエルは歴史的に戦争を重ね、危機に備える意識が強い。小さい国で、出入国が空港1カ所にほぼ絞られることも厳しい対策を可能にしている」と話す。

 厳格な入国禁止策は、最初のウイルス侵入を防ぐ上で理解できる政策だという。「例えば、日本のクルーズ船で『陰性』だとして帰国した2人は、イスラエル帰国後に陽性と判明した。なのに日本政府は、同様の日本人を解放している。日本人を入国禁止にするのは一定の説得力がある」

 ただし、対策の行き過ぎにも警鐘を鳴らした。「政府はいま、専門家の意見を十分に聞いているとは言いがたい。科学的証拠に基づき、バランスを考えた対応が望ましい」

 イスラエルで3月2日に総選挙を控えることも影響した可能性があるという。「一部の政治家が、選挙を意識して過剰な政策を取っていないか、注意して見ていく必要がある」と話した。(エルサレム=高野遼)